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官能の暗殺者(2)

作者:5代目スレ920氏
備考1:女暗殺者×少年警備員
備考2:「1」を女性視点から


 窓から射し込む日差しが頬をくすぐり、心地良さと気だるい睡眠への欲求に、私は小さ
く喘ぎながら寝返りを打つ。
「ああ…ん……はう…」
 扇情的に響くであろう吐息を隠す必要も特にない。ベッドの暖かい毛布に包まりながら、
もう一度眠りの世界に落ちようと思ったが――部屋のドアをノックする音がした。
「ん…どう、ぞ……」
 寝起きのぼやけた声を隠さず、身体を横たえたままで重い瞼をこじ開ける。それでも薄
く開くのがやっと。全開するにはまだ光が眩しかった。
 だからドアを開けて入ってきた男の顔も少し霞んで見える。がっちりとした肩幅のある
長身の男性で、深い色のスーツも見事に決まっている。サングラスをかけているその目か
ら視線をうかがうことはできない。要人警護の任務が似合いそうな風貌だ。
 まあ、私が要人かといえば――そう思う人もいる、くらいの立場ではあるが。
 だから、この男も私には敬語になる。
「リューシア様、おはようございます。仕事の依頼が入りました」
「……は、ん…?」
 部屋の真ん中に直立した彼は、私の何個目かの偽名を呼んでから用件を告げた。
 私は辛うじて目を開け、上半身を起こして誘惑の毛布を払う。伸ばした脚を布団から引
き抜き、腰を回して彼の正面を向く。ベッドの端に腰掛けるような体勢だ。
 今、私が身につけているのは、ほとんどシースルーの青いネグリジェのみ。下半身には
申し訳程度に局部を覆うショーツとガーターストッキングを身につけているが、むしろそ
れは肌を隠すというより、男の情欲を更に煽る方へと動かすだろう。
 だがほとんど半裸の私を見ても、彼は鼻の下を伸ばそうとすらしない。使者だから彼の
その態度も妥当だけど――男と寝ることを生業の1つとしている私にとっては、ちょっと
した悔しさも覚えてしまう。
 せめて「隣室で待っております。服を着ましたらお呼び下さい」などと言ってくれれば、
この朝も少しは気分が変わるのだけど。
「依頼……?」
 リューシアの名で依頼が来るということは、暗殺のほうだろう。
「はい。隣国ネーディア市の貴族、ガイヤー・シュベルン議員が標的です。依頼主は同市
マフィア傘下の事件師グループです。有力政治家の彼が企業舎弟の不正を告発し、その後
の利権漁りのためにシマを脅かそうとしていると。報酬については……」
 彼は事務的に書類を読み上げていく。隣国のネーディア市といえば国境を越えればすぐ
そこだ。それほど遠い土地でもない。
 報酬がいつもより安いのが気になるが、引き受けるのにやぶさかではない。快諾という
ほどではないが、断る理由もなかった。


「いいわ、引き受けましょう。でも、どうして私なの? 他にも凄腕はいるでしょうに」
 男はやはり無表情のままだ。読み上げた書類をこちらに渡しながら問いに答える。
「そこまでは分かりません。リューシア様が信頼されているということでは? あなたの
任務成功率の高さは闇の世界でも話題になりますよ」
「そう? でも、任務成功率なんかより、私を抱きたいとかモノにしたいとか、そんな話
題のほうが多いんじゃないの?」
 ニヤッと笑い、そんな話題へと切り替えてみる。
「ええ、こちらの仕事より本業の話題のほうが多いのは事実です」
 本業――そう、暗殺は副業だ。裏社会での私は暗殺者としての顔よりも、高級娼婦とし
ての顔のほうが有名だ。
 売春だの娼婦だのはこの国でも隣国でも禁じられている。されど世に原初の職業絶えた
例なし。歓楽街には夜鷹などいくらでもいるし、官憲の目を盗んだり、あるいは癒着した
りで経営している娼館なども珍しくはない。
「ふふっ、やっぱり? それじゃあね……お願いがあるの」
 私は妖しく瞳を潤ませながら、科を作って上目遣いに彼を見上げた。脚を組み替えなが
ら姿勢を崩し、ベッドに横たわりそうな身体を肘で支える。残りの片腕を胸の下へと動か
し、さり気なく乳房の谷間を強調しながら――誘惑してみた。
「昨日の男が薄くってさ……身体が物足りないの」
 切なげな甘ったるい声で誘いかける。
「ねえ、一緒に寝てくれない…?」
 この鉄仮面がどんな反応を見せるのか、好奇心を媚態の裏に潜ませて、注意深く彼を観
察した。ちょっとでも下半身なんかに動きがあれば面白いんだけど――
「大変申し訳ありませんが、お断りします」
 鉄仮面は鉄仮面のままだった。下半身どころか心に細波が起こったような雰囲気すらも
感じられない。顔をピクリともさせず、即座に拒否されてしまった。
「もう……そう言うとは思ったけど。どうして?」
 私の負けだとは分かっていたが、まだ声に甘さを残しながら問い返す。この私が抱いて
くれと迫っているのだ。これほど都合の良い話は滅多にないですよ?
「リューシア様は大変魅力的な方ですし、とても光栄だと思います。ですが――」
 彼はそこで背中を向け、出口のドアへと向かい始めてしまった。
「"私を暗殺しろ"と何者かに依頼されている可能性も否定できませんので」
 彼はそれだけ言い残すと、入り口で一礼して部屋を出ていってしまった。
「……ふふっ」
 私は肩を竦めて起き上がった。苦笑を浮かべながら小さくつぶやく。
「そう言われたら何も反論できないわ……」
 別にそんな依頼はされていないが、確かに暗殺者と交わることほど危険なことはない。
私は男が完全な無防備の時に命を狙う。夜伽で二人きりの時に牙を剥くのだ。
 暗殺や謀略が閨で達成されるのは歴史の常。私の手法もその例からは漏れない。最も昂
ぶる時に命を狙われることほど恐ろしい罠はあるまい。
「あ、ふ……」
 あくびをしながらベッドから立ち上がり、眠気を払うように伸びをする。手足が伸び切
る感覚が心地いい。
 頭を振って髪を振り乱し、私は浴室へと向かった。


 シャワーの湯に身を委ね、夜に蓄積した汚れを洗い流す。昨夜の男が大したこともなか
ったのは事実だった。彼と関係を結ぶことはもうないだろう。
 私のような高級娼婦とは、男がただ金を払えば抱ける女ではない。美貌と知性と男を喜
ばせる能力が認められ、政財界の重要人物や貴族など上流階級ばかりが買うことができる
娼婦のことだ。
 しかし、すぐに夜の関係を結べるわけではない。それでは金さえ出せば済んでしまう娼
婦と何も変わらないからだ。
 選ぶ権利は娼婦側にもある。仕事の予約を受け、まずはデートから始まり、お互いを見
定めるところから始まるのだ。
 そこでお互いが気に入らなければ関係は終わる。好感触ならば次の予約も受け入れ、再
び相手を見定めることとなり、より親密な仲となってから同衾が許される――のが普通で
ある。相手が気に入ればその日のうちに夜を共にすることだってあるから、結局は本人の
気持ち次第だが。
 高級娼婦はみな美しく、男の扱いにも慣れているから、相手から気持ちが冷めることも
少ない。故にほとんど主導権は娼婦側が握ることになる。勿論、私たちと会うのに必要な
金額も相当なものだ。
 並の男が大枚をはたいた程度では、高級娼婦に声すらかけられない。そのくらい手の届
かない存在である。
 上流社会では貴族と同じ扱いを受ける。売春も娼婦も法律では禁じられているが、実際
には私たちのような高級娼婦は、上流階級にとってのステータスシンボルになっている。
それが声高に語れぬ上流社会の現実だった。
 加えて私には暗殺者・テロリストという更なる裏の顔がある。これはもう高級娼婦の存
在以上に秘匿されねばならぬ事項であり、私自身のトップシークレットだ。
(気持ちいいな……)
 肌理の細かい肌が湯の熱で桜色に染まる。身体を伝って流れ落ちる湯の感覚が心地よく、
思わず溜息が漏れてしまう。
 浴室内の鏡が湯気に曇る。シャワーの湯をかければ鏡面の曇りが洗い流された。
 そこに映る私の裸身は――ただ、ひたすらに美しく、扇情的だ。
 量感に溢れる乳房は重力を無視するかのように上向きの実りを見せている。膨らみが大
きいからと言って垂れてしまうような無様さは微塵もない。バストの形そのものが理想的
で、「ツンッ」と音がしそうなほど張りのある美乳は、これまで数多の男を狂わせ、そし
て女の羨望と嫉妬の対象になってきた。
 頂点にある敏感な突起も男好きのする薄桃色に染まっている。特徴的なのは乳首が常に
勃っているように見えることだろう。平均より微かに高さのある乳首というだけだが、そ
れだけでもう先端が欲情済みのように見えるのだ。
 しかも周囲の乳輪は小さく窄まっていて、バストの美しさを更に秀でたものに仕上げて
いる。ただ膨らみが豊かなだけではなく、形も張りも、そしてパーツのバランスも完璧な
造形美を誇る乳房……私自身も思わず見入ってしまうほどだ。


 視線を下に移せば、くびれたウエストがまた自己愛をそそる。
 ただ痩せさらばえて肋骨を浮かび上がらせるような、病的なくびれではない。絶妙な引
き締まりとしなやかさを維持した肉が、元から細身の身体を適度に覆っているのだ。
 この健康的な柳腰は私の骨格の造りがなければ形成されない。最早こういう身体をくれ
た神様に感謝するしかない、というレベルにまで達している。誰にも真似できない天性の
くびれが生み出されているのだ。
 くるりと後ろを振り向いて背と臀部を鏡に映す。ウエストから下へと連なる曲線は、す
ぐに美しく丸みを帯びたヒップラインを描くことになる。
 乳房と同様に上向きで、張り詰めた肌の引き締まりは今にも弾けそうなほどに瑞々しい。
形よくハート型に発育したヒップは、男の劣情をかき立てる芳香を後方へ漂わせているよ
うなものだ。腰のくびれと対照的な盛り上がりの落差は、バストラインから続く私の曲線
美をより完璧なものとする。
 勿論、そのボディから伸びる脚だって……完璧だ。
 再び振り向いて腰に手を当て、モデル気取りのポーズをとる。
 私の長身を支える2本の脚はすらりと伸びやかで、とにかく長い。常人には考えられな
いような高い位置に私の腰がある。私より脚の長い女など今まで見たことがない――いや、
脚の長さでは男でも私にかなわないのがほとんどだ。
 足首はかなり細いが、上に行くにつれて適度に魅惑的な肉付きに彩られ、しかも肌その
ものが非常にきめ細かい。誰が見ても美しいと感じ、そして自らの欲望を爆発させたくな
る美脚なのだ。
「何度、見ても……完璧よね、私って」
 自分のスタイルに酔い痴れているうちに、鏡がまた曇り始めた。陶酔の高揚感は身体の
中に名残惜しそうに残っていて、いつまでも自分を見ていたくなったが――ふっと苦笑し
て、私はまたシャワーを浴びるのだった。
 この通りナルシストの私だが、それくらい自分の身体には自信がある。
 通常なら自意識過剰で見苦しいと笑われる心情だろうが、男心を惑わせることで頂点に
上り詰めた高級娼婦なんて多かれ少なかれこんなものだ。いかに貧相な精神と笑おうとも、
私を目の前にすれば男は皆、そうした下らぬ演技をやめてしまう。好色な視線を私の身体
へと絡みつかせ、そのまま目を離せなくなるのだ。
「脆いものよね……」
 だから私は私のままでいい。私は私自身が大好きなのだ。


 頭から湯を浴びて、濡れ烏の髪が更に艶を帯びる。脱衣所で髪と身体についた水を拭き
取ると、火照った体から熱を逃がすように、深く熱い溜息が漏れた。
 玉の肌が弾いた水滴をタオルで拭き、身体に巻きつける。もう1枚で濡れた髪からも水
気を拭き取った。湿りはもうしばらく残るが、これで髪から水が垂れることはない。
(今回の標的は有力貴族か……)
 さて、どうやって相手を殺害しようか。遠方からの狙撃技術など私にはないし、何とか
本人と接近しなければならない。怪しまれずに近づくにはどうすべきか。
 標的のガイヤー・シュベルンとは面識もある。以前に政財界の要人を集めるパーティで
顔を合わせた。彼も私のことは知っているし、突破口はこの辺だろうか。
 思案しながら下着を身につけた。高級ランジェリー・デザイナーによるオーダーメイド
のブラジャーとショーツだ。
 私の身体から採寸して製作した、私のためだけの下着である。職人芸のような細かい
レースが施されたブラとショーツはそれだけで充分にセクシーだが、一流のデザイナーに
よる手が入っているため決して下品にはならない。色は私の髪と同じブラックで、私の肌
の白さをより引き立たせ、美と艶の相乗効果を生み出している。
 この上下セットだけで並の男の給金1ヶ月分など軽く吹っ飛んでしまう。これに社交の
場に出ていくドレスや宝飾なども加えれば、それこそ私は「歩く宝石」と化す。
 下着の上からゆったりとしたバスローブを羽織り、1時間ほどかけて髪の手入れを済ま
せて脱衣所を出る。身体の火照りが緩やかに冷めるのを待ちながら、朝に届いた郵便物を
開封して中身を読む。
 その中の1通を見て、何かの間違いではないかと疑ってしまった。何度も内容と名前を
見直し、間違いないことを確認すると……思わず苦笑が漏れた。
「なるほど、そういうことか」
 道理で私に依頼が来るわけね。耳の早い者もいるものだ。
 いや、むしろ情報を掴んだ者の先回りというべきか。先ほどの大男もそこからの使者と
考えるべきだろう。
 ガイヤー・シュベルン氏から、私と「会いたい」という手紙が入っていたのである。


 私の任務成功率が高いといっても扱う案件が少ないだけだ。しかし、実績がものを言う
世界では、そんなハッタリに近い誇張も意味を持つことがある。数字を聞いただけで相手
が勝手に想像を巡らせてしまうのだ。
 私の評判を知る闇社会の男たちは「驚異の任務成功率を誇る女アサシン」と「一番人気
の高級娼婦」という、全く接点のなさそうな側面を結びつけようと、さぞや想像を逞しく
することだろう。
 そんな妄想はやがて私の神秘性を高めていく。周囲が勝手にミステリアスな私の像を作
り上げてしまうのだ。実態はどうあれ、男たちが勝手に用意してくれたイメージは利用さ
せてもらうに限る。
 ガイヤー・シュベルンは私が暗殺者だとは知らない。彼のように「貴族の政治家」など
と、表に顔を持つ者に私の正体を知る者はいない。それこそ頭のてっぺんから足の先まで
闇の社会に浸かっている者しか知らないのだ。だからこそ私に依頼が来たのだ。
 隣国に行くときは国境の町を抜ければいいが、ガイヤーからは隠れた通行ルートを使う
ように指示されていた。
 山越えの国境だ。警備は薄く、地元の村人がいるだけだという。その先に使いの者を出
しているとのこと。誰にも知られず入国して欲しいらしい。
 山越えの国境は裏社会で「ネズミの道」と呼ばれている。「ネズミ(侵入者)はいつも
同じ道を通る」ことが由来である。不法入国も侵入には違いない。
 準備を整えて国境の町に一泊。翌日は街道を引き返し、岐路から「ネズミの道」へ入る。
 誰もいない道を進み、検問が見えてきたところで道から外れ、木陰に隠れた。そこで肌
の露出度の高いブラックドレスに着替え、靴も高いヒールに履き替える。こうして娼婦と
しての"武装"を整え、国境検問所へ向かう。
 山小屋のように粗末な建物だ。近づいただけで中から警備兵が姿を現した。偶然か、そ
れとも私の足音が聞こえたのか。
 兵と言ってもまだ子供に近い少年だ。背も私より低く、なかなか可愛らしい顔立ちをし
ている。磨けば光るタイプの少年というところか。
 通行証の有無を確かめようと私に話しかけてくるが――紅潮した頬と私の身体に向けら
れる視線は、やはりこの子もオスであることを示していた。
 こちらを見ながら私の乳房や露出した脚にチラチラと視線を送り、理性と本能の狭間で
葛藤しているのが手に取るようにわかる。所詮は男、か。
 多くがそうであるように、もう彼も私を抱きたい気持ちでいっぱいだろう。ヤリたい盛
りの年頃だし、服の中でもう股間を屹立させているに違いない。
 軍服の袖から出た少年の指がふと目に入る。今度は私の視線が引きつけられる番だった。


 思わずごくりと唾を飲む。線の細い姿に似合わぬ長い指。普段は力仕事でもしているの
か、歳の割に太さも適度にある。
 だが入念な手入れをしているかのようにきれいで、しなやかな指だった。肌も健康的に
焼けた色をしており、手の甲からは少年の柔軟さと男の逞しさを兼ね備えた色気が感じら
れた。
(いい手ね……)
 男の指や手にフェティシズムを感じる女は多い。私もその一人だった。
 しかしそれにしてもこれは――極上の指である。
 こんな指に優しく愛撫されたら、どれだけ気持ち良くなれるだろう……想像するだけで
体の力が抜けてしまいそうだ。
 磨けば光りそうな、将来性を感じさせる外見も悪くない。私の心に「モノにしたい」と
いう気持ちが湧き上がる。
 警備兵を籠絡してここを通り抜けようと思っていたが、どうやら予想外の価値が付加さ
れそうだ。存分に楽しませてもらおう。
 体を屈ませ、少年と顔を近づける。甘い言葉を囁きながら抱き締め、右手をとる。
「可愛い顔してるわね、坊や……」
 余りに魅力的なその手を眺めた後、指と指の間を舌で舐め回した。
 彼にはどうせ未知の快感だろう。いい顔と声で喘ぐ少年の耳朶や首筋を舐め、更に攻め
立てていく。ウブな坊やなど、これだけで興奮を高みに導ける。
「うぁっ……!」
 まるで女のような声で彼は悶えた。まだ声変わりもしていないのだろうか。声までもが
可愛らしく、私のサディズムにちょっとした火が灯った。
 まるでキスするかのように顔と体を密着させ、目をどこに動かしても私の肢体が視界に
留まり続ける位置取りで男を抱き寄せた。


 私は通行証を持っていないことを彼に告げつつ、彼が今まで味わったことのないような
快感を与え続け、理性と本能の葛藤を更に煽る。
 ……思った通りのいい顔だ。
「坊やなら通してくれるでしょう…?」
 せめぎ合う2つの感情の葛藤が表情に現れる。彼をコントロールするために、秘密を告
げる度に愛撫の刺激を強い方向へと導く。
 秘密を告げる度に、彼は私を止めねばならないという理性の方向に針が振れるだろう。
しかし同時に私に与えられる快感も強くなり、本能の求める欲望もより深められていく。
 こうして男は理性と欲望の間で激しく揺れ動くのだ。どちらを選べばいいのか悩むもの
の、見返りのない理性に対し、それを断ち切るような悦楽だけが主張を強めていく。
「あっ……ああっ、はあっ……」
「可愛いわね、ボク……まるで女の子みたい」
 私はその間、誘惑に屈伏していく表情の変化をじっくりと見させてもらう。これだけで
も男には屈辱的なはずだ。けれども何故か、彼らは決して、私を突き飛ばしてでも逃れよ
うとはしない。
 私が女のようだ、と形容したその瞬間こそ、少年は身体を固くした。
 男のプライドがもたらす意地だろう。ふるふると震える手が伸びてきて、微かな抵抗の
意図が感じられるが――私はそこでまた、耳朶を甘く噛みながら耳元で囁くのだ。
「実はね――私、悪い人なの。暗殺者なの。テロリスト」
 瞬間、快感に浸る余りに半ば閉じていた少年の目が驚きに見開かれた。
「嘘、でしょ……!」
 私は答えず、首筋へと舌を這わせ、背筋へと手を回して緊張をほぐすように撫で回す。
これだけで痙攣のようにがくがくと全身を震わせ、男の身体は少しずつ弛緩へと向かって
しまうのだ。
 未だに言葉だけは理性の領域から絞り出されたもので、私を通さないと言ってはいるが
――沈みゆく船を止める術はもうない。
「もう…強情なのね?」


 くす……自然と含み笑いが漏れる。男を翻弄する楽しさが私に火をつけ、サディスティ
ックな快感が脳の中に満ち始めた。こうなった私はもう止められない。目の前に可愛らし
く悶える獲物がいるなら尚更だ。
 快感に乱れる女を見たがる男の心理とはこんなものなのだろうか…。私の欲望はそろそ
ろ本命を落とす方向に動き出していた。
 これまでの愛撫でこの男の子の欲望は相当に高まっている。理性と本能の葛藤もまだ続
いていようが、今ではすっかりその天秤も本能のほうへと傾いているだろう。
 人間、苦痛には耐えることができても快感には耐えられないのだ。こうなった男はもう、
ちょっとしたきっかけで堕ちていく。
 この坊やを攻めることで脳から染み出し始めた優位の快楽を味わいながら、用意してい
た甘ったるい声を彼の耳元で囁く。
「ねぇん…通してくれるでしょ?」
 まるで嬌声のように、鼻にかかった声を響かせる。脳を蕩けさせるような甘い声だけで、
男は獣へと化けてしまう。もう理性の抵抗など口から出る言葉にしか残らない。
 だが男を獣へと変えるだけではまだ二流だ。手練手管を駆使して目の前のケダモノをお
となしくさせてこその調教だろう。そのまま「食われて終わり」では、男がSEXを味わ
えただけであり、彼らが得したことにしかならない。
 あくまで欲望を主導するのは私なのだ――そのことを自覚しなさい、と心の中でつぶや
きながら、私は勃起し切ったペニスに服の上から手を絡ませる。
 指で輪を作り、肉棒をその中に収める。軽く握り締めながら布地の摩擦なども計算に入
れ、男が最も興奮する圧力で、ゆっくりとペニスをしごく……。
「だ、駄目……! ああっ!」
 途端に少年は甲高く喘ぎ、身体を硬直させておとがいを反らした。もう彼に耐える術は
ない。口から出た「駄目」は理性の断末魔だろう。私と許されざる関係を迫られた男によ
く見られる反応である。
 数え切れぬほどの男を、それこそ星の数だけ果てさせてきた私だ。服の上からだろうと、
快楽のポイントは実にたやすく探り当てられる。ましてや相手は夜の自慰をやっと覚えた
程度であろうウブな少年――まあ、持って15秒でしょ。
「あああああっ……!」
 性器の感触でわかる。股間の玉がぐーっとせり上がり、身体をより一層固くして逃げる
ように腰を引いた。男がイッてしまうシグナルだ。これに例外はない。
 もう何もしなくても射精するが、布地越しに棒を包む私の指先は愛撫と快楽の協奏を止
めようとしない。そのほうが男をよがらせることができるからだ。
 手だけはペニスを愛撫し続け、顔を真っ赤にして悶える少年の顔に私の目は向けられて
いる。口を半開きにしながら射精への欲求に耐える様は、私の脳内にも独特の快楽をもた
らしてくれる。相手からの愛撫で得られる性感とはまた違うチャンネルの快感だ。身体で
はなく頭の中で弾ける気持ち良さ。
 可能な限りの快感を一撃でもたらしてやりたい。そうすることで私の存在は男の頭の中
で絶対のものとなる。優位を見せつければ自然と互いの位置は決まるのだ。
(だから、いい顔で鳴いてね……?)


 少年が一際強く喘いだ瞬間、服越しにもペニスがひくひくと震えるのがわかった。
 二度、三度、四度、五度……まるで衰えを知らぬかのように激しく痙攣し、その度に股
間の布地がじんわりと生温かく濡れていった。ふふふ、15秒ぴったり。
 さすがはオスに目覚めたばかりの欲望だ。噴き出される白い情熱の量も凄い。恍惚とし
た表情で射精する少年は非常に可愛く、想像以上にいい反応を見せてくれた。
(ますますモノにしたくなるわね……)
 私の存在を更に強く刷り込んでおかねば。
 射精が止んでも私は愛撫を続けた。イカせるときより力は弱く、軽く撫でさするだけで
いい。絶頂の余韻が残る男の身体はたったそれだけで、射精並みの愉悦を味わうことがで
きるのだ。
「うああああ……!」
 イク瞬間にも劣らぬような反応が私をゾクゾクさせる。
 この少年もどうせ童貞だろうが、それでも私が男を知り尽くし、並外れたテクの持ち主
だというのは充分に理解できるだろう。
 あなたの村の女の子にこんな真似ができると思う? 勿論、早熟で色気づいた娘もいる
でしょうけど、所詮はセックスしたことがあるかどうかのレベルでしょう? 私が男に与
えてあげられる快感は、そんな子供の比じゃないのよ……?


 余りに楽しくて、くすくすと含み笑いが自然と漏れてしまう。
 荒い息で天を仰ぐ坊やの視界へ強引に私の顔を割り込ませ、目をじっと見つめる。彼の
視線はぐらぐらと揺れていた。焦点の合わぬ瞳が虚空を泳いでいる。女に屈服させられた
悔しさと気恥ずかしさを、どう受け止めたらいいのか分からないのだろう。
 視線のみならず、ふらつく彼の胸板を人差し指で軽く突いた。射精直後で骨を抜かれた
男など、これだけで腰砕けになる。尻餅をついた坊やの前に立ちはだかって見下せば、そ
れはそのまま私と彼の力関係を現していた。
 際限なく湧き上がるサディズムの満足への欲求を堪えきれず、私は挑発的な笑みを浮か
べて勝ち誇り、更に男を嬲った。
「あっはははははは! なあに、そんなに気持ちよかったわけ?」
 ウエストに手を当て、腰を曲げて見下ろしながら男の不甲斐なさを罵った。性の劣位と
能力の低さを言葉攻めで刺激すれば、マゾの扉は少しずつ開く。
 同時に右足を前に突き出し、ドレスのスリットから美脚を覗かせた。案の定、ふらつい
た男の視線は私の顔から乳房の谷間へ、そして舐め回すように下半身へと移動し、下まで
行き着いたところでまた上へと戻ってくる。そんな目の動きすらも私の掌の上なのだ。
「坊やがイッちゃう瞬間の顔、最後まで見逃さなかったからね。とっても可愛かったよ?
目を閉じて気持ち良さそうにあんあん喘いじゃってさ。ほんと、情けない男ね」
 優位に立つことの高揚感は私の身体に走る快感と一緒に堰を切っていた。もうエクスタ
シーの領域である。
 更なる快楽を求めて私の欲望が仕上げに入った。M字に脚を開いて腰を抜かし、無様な
姿を晒す少年の真ん中へと足を伸ばし――ヒールの踵で未だ硬直したままのペニスを踏み
つけたのだ。
「うああっ!」
 痛みの叫びではない。快感の呻きである。
 私が踏んだのは肉棒の裏筋だ。巧みに片足をコントロールし、くにくにと動かしながら、
カリや筋をこすり上げる。踏まれる痛みどころか、男が気持ち良くなるような力加減で攻
め立てるのだ。
 この程度、私にとっては造作もないテクニックだ。このまま続けて男を再び射精に至ら
しめることもできる。
 踏まれることなど屈辱でしかないのに、それでなお感じてしまったら――男の抱える理
性と本能の葛藤はより深くなっていく。
「あっ、あっ、あああっ!」
 ヒールの踵が服の上から肉棒を這い回る。刺激を得る度に喘ぐ少年は、私の思惑通りに
その葛藤を存分に味わっているようだ。
 けれども、とろんとした瞳はもう焦点が合っておらず、彼が私に求めるものの答えはも
う既に出ているのが見て取れた。

 落ちたわね……。

 ほくそ笑んだ私は、男を惑わす傾城の笑みから暗殺者のそれへと顔色を変える。声の
トーンを落とし、要求を突きつけるのだ。
「通して……くれるでしょう?」。
 少年は死んだ魚のような、けれども私への陶酔だけはしっかりと残った瞳を私に向け、
「……は、…はい……」とうなずくだけだった。
 私は口の端を持ち上げ、柔らかく微笑むと「じゃあね、坊や」とだけ告げて検問所を通
り抜けた。
 その後は決して後ろを振り向こうとはしない。こうして去っていく背中を見せつけるだ
けでいいのだ。それだけでMに目覚めた男は胸を高鳴らせるのだから。


 10分ほど道を進んだところで歩くのが辛くなってきた。このカーブを曲がったら靴だ
けでも履き替えよう――と思っていたら、そのすぐ先に馬車が止まっていた。
 私を見つけた御者の男は深々と頭を下げ、止まっている馬車を発進させて私の前までや
ってきた。馬から降りるとまた頭を下げてくる。
「ラセリア・リュンベル様、ですね?」
 主に高級娼婦として私が表で使う名前だった。
 間違いない。この人がガイヤー・シャベルンの使いの者だろう。
「ええ、ラセリアです。あなたがガイヤー様の?」
 澄ました態度で笑顔を作り、御者に訊ね返す。
「ガイヤー様からラセリア様のお迎えを仰せつかりました。どうぞお乗りください」
 彼は手慣れた手つきで馬車の扉を開けた。室内の座席には柔らかそうな敷布が敷いてあ
る。添えつけられた小棚には、小さなティーセットと菓子が並べてあった。
「中の座席は寝台にもなりますので、お休みになっていただいても構いません。山道を抜
けるまでは何もありませんし、是非おくつろぎください」
「ええ、ありがとう。そうさせてもらうわ」
 座席の敷布は長時間座っていても腰に疲れの来ないような柔らかさだ。まるでソファの
クッションである。
 座席側面、足元の扉を開けると中から毛布が出てきた。それを引っ張り出し、膝の上に
置いて背を壁に寄りかからせ、ほっと一息。壁についている小窓から御者と会話もできる
ようだ。
「お言葉通り、ちょっと休ませてもらうわ……何かあったら声をかけてね」
「かしこまりました。おやすみなさいませ」
 事務的な声が返ってくるのを聞いた後、私はヒールを脱いで横たわり、足を伸ばして毛
布を肩まで引き上げた。
 あの検問所の少年は予想以上の獲物だった。戻ってくるときもまたこの道を通ろう。
 彼を手懐ければ国越えのフリーパスを手に入れたも同然だし、何しろあの魅力的な指の
持ち主だ。夜のパートナーとしても最高の素材になる。女のA-to-Zを教え込んで、私好み
の色に染めてしまうのも面白そうだ。
 やがて少年の若い反応からこの後の暗殺について思考を移しながら、私は次第にまどろ
みの中へと落ちていくのだった。



                                               THE END

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