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官能の暗殺者(1)

作者:5代目スレ920氏
備考1:女暗殺者×少年警備員
備考2:誘惑、愛撫のみ

 村から出て街道を進むと分かれ道がある。そこから街道の支線に入り、なだらかな山道
を登ること1時間。僕の警備する国境検問所はそこにある。
 検問所と言っても警備員は僕だけだ。しかも勤めるのは週に2回だけ。村の若者が持ち
回りで山小屋みたいな検問所で通行人をチェックしている。僕も15歳になった今年から、
警備を任されるようになった。
 普通の検問所ならもっと物々しい警備兵がつくものだろう。だけど、ここの国境を通ろ
うとする人なんてまずいない。それこそ誰も来ない日がほとんどだ。
 何故なら、僕の警備する検問所の先は山道だからだ。
 隣国の都市へ続く道だが、街道の本線を辿れば平坦な道が続くし、国境には小さな宿場
町もある。そちらを通ったほうが距離もずっと近い。
 山間の狭い道は軍隊を入れるにも非常に不都合で、交易路にも向いていない。だから本
国も隣国もこの山道をほとんど整備していない。戦略上もこの狭い道が重視されることは
なく、今となっては地図にも載っていないほどである。
 本来ならこんなところに国境検問所なんて置く必要もないのだろう。けれど、ここに検
問を設置し続けることで本国からお金が落ちてくるのだ。
 僕らには警備員としての給料が支払われ、村にもそのための補助金が出る。主産業が農
業だけの村はこのお金を手放したくないし、この地区の役人も「警備しています」と本国
に報告できる。そうすれば万が一のことがあっても責任を問われない。
 村と国の小さな馴れ合いが、この国境検問所を生かし続けているのだ。

 牧場で羊を育て、毛を刈って本国の街まで売りに行く。僕の本業だってそんなもんだ。
 警備員と言っても僕に警備をする実力なんてない。村からは国の軍服と銃剣が支給され
ているけど、最低限の護身術を習ったくらいだし、発砲したことは一度もない。ちょっと
でも力のある人に襲われたら僕なんてどうしようもない。
 だから検問所と言っても「通行証の確認をするだけでいい。怪しい人が襲ってきたらす
ぐに逃げて助けを求めろ」と言われているほどだ。
 実際、この検問所を通る人はほとんどいない。あっても恋人の駆け落ちとか、間違って
街道から外れてしまったとかで、深刻な事態になったことは一度もない。
 つまり道の様子をうかがうだけでボーナスみたいな給金が入るのだから、この仕事は村
にとっても警備員にとっても旨味があるのだ。
 昨夜から夜勤に入っていた警備員(勿論、よく知った村人だ)と交代し、僕は検問所の
小屋に入った。大きな窓が道のほうへ向いていて、動く物があればすぐ目に入る。後は夕
方、交代要員が来るまで警備する。実質的にはただボーッとしているだけだ。
 昨日のうちに羊の世話もしておいたし、お隣りのおじさんにも頼んであるから牧場の心
配はしなくても大丈夫だ。後は小屋に揃えてある本でも読みながら、日が暮れるのを待つ
だけだった。


 けど、この日はいつもと違った。
 昼の盛りも過ぎ、太陽が西に傾き始めた頃、土を踏みしめる音が外から聞こえた。
 本を読む手を止めて顔を上げる。窓から足音の主は見えなかった。
 もしかしたら動物かな――などと思いながらそっとドアを開ける。
 珍しいことに小屋の少し手前、その緩やかな坂道を登ってくる人がいた。
(う、わぁ……!)
 思わず僕は息を呑んだ。
 ゆっくりと坂を上がってきたのは女性だった。それも、とびっきりの美女……。
 歳の頃は23くらいだろうか。形よく整った完璧な造形の輪郭と、絶妙に配置された目
鼻立ち。長い睫毛に彩られた切れ長の釣り目は、それだけで色気を感じさせる。雰囲気が
とても大人っぽくて、何より自信に満ちている。
 思わず目を奪われる黒髪は背中まで長く伸ばされている。吹いた風に乗ってまるで別の
生き物のようにふわりと舞い、その優雅さに僕は見惚れてしまった。
 けれど、彼女の美しさは同性の歓心や異性の保護欲を刺激するようなものではない。
 彼女を視界に捕らえたその瞬間から、心に醜い欲望が滾るのを僕ですら自覚していた。
(この人を抱きたい……)
 分不相応にも、自然とそんな肉欲が沸いてしまうような魅力なのだ。
 慌てて頭の中からそんな邪な願望を振り払う。けれど、彼女の美しさは美術品や野に咲
く花を愛でるような白い方向には働かない。むしろ本能的な欲求や人間の仄暗い暗部を引
きずり出し、本性を晒させる――そんな黒の魅力なのだ。
 まるで虫が美しい花よりも食虫の隠花植物に誘われるような、危険だけれども抗い難い
誘惑の芳しさ。井戸の深さを知りたくなって、入ってみたらもう戻れない。そんな危うさ
を男に向けて放っているのだ。
 その欲望の暗い炎へ油を注ぐのが、彼女の蠱惑的な姿態だろう。一度彼女の姿を見たら、
二度と他の女に妖艶なんて言葉は使えなくなる。男にとって余りにも都合の良い体つきを
しているのだ。


 彼女は大胆に肩から胸元を露出させ、しかも身体の線がはっきりと浮かんでしまうブラ
ックのドレスに身を包んでいる。
 真っ先に男の目を惹きつけるのは、前面に突き出たかのように膨らんだバストだろう。
男ならついついそこに視線を送ってしまうであろうほどに豊満な乳房。見事なまでに発達
した2つの果実は、その境界に切れ込みの深い魅惑的な谷間を作り出している。歩くだけ
で膨らみの上部がプルンと巧まざる震えを見せ、男の期待を隙間なく満たす。
 ドレスの布地はそこから下――バストの豊かさと比べ、限界まで絞り込んだかのような
蜂腰に絡み付いている。そこから連なる上向きのヒップラインと、短いスカートの端から
すらりと伸びた美脚への曲線は、例えようもなく甘美で艶めかしい。
 程よく肉付きのある太股は奮いつきたくなるほどに色っぽく、けれど足首はまるで折れ
そうなほどに細い。とんでもなく長い脚を包む、薄い黒ストッキングを引き上げているの
は、これまたドレスと同じ色のガーターベルトで、とても挑発的に映る。
 スカートに切れ込んだ深いスリットからは、歩を進める度にこの美脚とガーターベルト
がチラチラと見え隠れし、豊かな胸の膨らみとこの美脚のどちらを眼福にすべきかと、男
の本能すらも惑わせてしまう。
 豊艶にして豊麗。そしてそのバストとヒップ、腰骨の張り出しとウエストの細さに演出
されるS字のくびれ……これだけでも心臓の高鳴りを誘発するのに、常に潤んでいるかの
ようなその双眸に見つめられたら、僕なんてあっさりと魅了されてしまう。
 そう、魅了されてしまう。だからこそすっかり失念したのだ。
 長い髪に上質なドレス、長い爪に高いヒール。肌の露出度も高く、まるで男に自分の身
体を見せつけるかのような服装。
 地図にも載っていないような山越えの国境に、こんな歩きにくい格好の女が――しかも
「絶世の」を枕詞につけたくなるような美女が――たった一人で現れるなんて、明らかに
おかしいだろう。
 こんな簡単なことまで僕は失念していたのだ。
 いや、彼女の魅力に失念させられたと言ったほうが正しかった。
 任務なんか放棄して彼女をずっと見ていたくなる。一分一秒でもその姿を目に焼き付け
たい。吸い込まれるような美女とはこういうものかと思った。
 そのお姉さんが検問所の前まで来たところで、ようやく僕は意識を取り戻した。
「こっ、こんにちは。国境越えですか?」
 声が裏返らないかと注意しながら話しかける。お姉さんの唇の端が微かに持ち上がり、
ふっと表情が緩む。
 その微笑みも凄く魅力的で、ただでさえ高鳴る心拍数が更に跳ね上がった。
「ええ、隣の国に行きたくてね……あなたが警備兵さん?」
 間近になると彼女の長身が際立った。やっぱりお姉さんのほうが僕より背が高い。元々
僕は背が低いほうだ。ヒールの高さを加えた彼女からは見下ろされてしまう。
「は、はい。警備を担当してます。国境を越えるのでしたら、通行証の確認を……」
「通行証?」
 ハスキーでセクシーな声のイントネーションが疑問形に上昇した。
「はい、通行証を見せてください。すぐにお通しできますので……」
 頭の中で通行証のチェック事項を反芻しながらお姉さんを見上げる。
 けれど、彼女は手荷物などを確認しようとする気配もない。服にポケットなどはなさそ
うだし、「どうしたのかな?」などと思った矢先だった。
「通行証はここに来る途中にあった村の役場で発行……」
 僕の言葉を遮るように、彼女の微笑みが途端に色香を増した。
 女に免疫のない僕はその意味に気づくことができず、質を変えたその美しさに一瞬、心
を奪われてしまう。
 だがそれは充分なほど大きな隙だったようで――お姉さんはその瞬間で僕を絡めとって
いた。
 くす……と口の端から小さな忍び笑いが漏れたのが聞こえた。
「可愛い顔してるわね、坊や……」


「――!?」
 一瞬、二の句が告げなかった。頭が混乱して考えがまとまらない。
 その隙に彼女は僕との距離を一気に縮めた。気づいたときには彼女に軽く抱き寄せられ、
目の前にその美しい顔があった。自然と目が合い、僕は一気に気圧されてしまった。
 彼女の漆黒の瞳に、戸惑ったままの僕の姿が映る。気恥ずかしくて顔がかぁっと紅潮し、
思わず目を逸らしてしまう。
 すると彼女は更に僕を抱き寄せ、身体を密着させる。抵抗することもなく、僕はされる
がまま、だらんと力なく垂れた手を彼女にとられる。甘い吐息が首筋に吹きかけられ、実
に心地のいい悪寒が背筋を走り巡った。
「いい指ね……」
 お姉さんは僕の右手を自分の手で持ち上げ、目の前にかざしてじっと見入った。
 何がいい指なのか僕にはわからない。けれど彼女は強い興味を抱いたようで、愛おしそ
うに僕の手を眺めた後、人差し指と中指の間を――赤い舌を伸ばし、舐めた。
「うぁっ……!」
 未知の体験に思わず声が漏れてしまった。ぬるりとした感触の舌が指を這うのが気持ち
いい。性感に分類されるような刺激が身体を走り、下半身を覆う部位が妙に窮屈になって
しまう。
 このお姉さんの艶めく肢体を目にした時点で半勃ちしていた僕のペニスは、今の愛撫で
完全に勃起した。性衝動が更に強まり、彼女の美貌や身体から目が離せなくなる。
 さっきから変わらないはずなのに、目の前の乳房や太股がずっと色っぽく見えて、触り
たくてしょうがない。欲望のまま貪りつくことができたらどれだけの快感だろう。
 彼女の色香に、僕は完全に狂わされていた。このまま引きずり込まれていく予感にとて
つもない高揚感を覚える。
 だけど、その瞬間。
「私ね、通行証なんて持ってないの」
 絶妙なタイミングで、お姉さんは僕の意識に冷たい水をぶっかけてきた。
「えっ……!?」
 弾かれるように僕は目を見開いた。だったら通すわけにはいかない、のに……
「でも、坊やなら通してくれるでしょう…?」
 この妖艶な美女は意識を取り戻した瞬間に、また僕を暗い欲望の世界に突き落とすのだ。
 囁きながら僕の耳朶を甘く噛み、耳の外縁部に舌をツツーッと這わせた。噛まれたとは
いえ痛みはなく、ただ心地の良い、緩い快楽がひくひくっと僕の身体を震わせる。
「あっ……ああっ、はあっ……」
「可愛いわね、ボク……まるで女の子みたい」
 熱を帯びた声が耳のすぐそばから聞こえる。強烈な衝撃を伴って、僕の脳髄をぐわんぐ
わんと揺さ振る言葉になった。
 僕が女の子だなんてあり得ないのに……。
 だけど異性に愛撫されて喘ぎ声を上げ、熱い吐息を漏らし、身体を痙攣させるなんて、
それはまさに前戯の愛撫を味わう女の子の反応そのものではないか。
 確かに僕は童顔だし、背も低いから幼く見られることが多い。セックスなんかまだ経験
したこともない。溜まったものは自分で抜くってことを、二年ほど前にようやく覚えたば
っかりだ。
 それでも少しずつ男の階段を踏んでいると思っていたのに、そんな中で突然「女の子み
たい」だなんて、まるで今までの僕が否定されたような悔しさを感じた。
 このままじゃ僕が壊される。こうなったら反撃してやる――そう思って、懸命に手を女
の身体へ伸ばそうとしたそのとき、またこのお姉さんは僕を現実へと引き戻す。
「実はね――私、悪い人なの。暗殺者なの。テロリスト」
 なん…だって……?
「これから隣の国に行って、私たちに都合の悪い人を殺すの」
 余りのことに、快感以外のことで僕は震えた。
 こんな女の人が暗殺者だって!?
「嘘、でしょ……!」
 口を突く言葉はそれが限界だった。僕の首筋と這う艶めかしい舌と、背筋を滑る温かい
指先、身体に密着する柔らかな肢体が絶え間ない快感をもたらし、微かに漂うセクシーな
香水の芳香が、嗅覚からも僕に絡みついて愛撫する。
「でも坊やは……通してくれるでしょう?」
 この瞬間を境にお姉さんの愛撫は激しさを増した。
 男の性感を煽り立て、ついに牙を剥く。
「駄目、です。通せま、せんっ……! ぐ、うぅっ…」
 僕はなけなしの理性を振り絞るが、彼女が与えてくる快感はとても抵抗できるものでは
なかった。頭では拒絶しなければならないと分かっているのに、身体が快楽を欲してしま
うのだ。
 年上とはいえ相手は華奢な女性に過ぎない。全力で抗えば振り払えるはずなのに、そん
な気力はどこからも沸いて来ない。女の柔らかさと甘美な匂い、そして未知の快感への予
感が、警備の義務なんか塵のように吹っ飛ばしてしまう。
 もうお姉さんに触られるだけで僕は快感に悶えてしまうけれど、この程度の愛撫は彼女
にとって軽度の前戯に過ぎなかった。
「もう…強情なのね?」


 くすくすと余裕の含み笑いを漏らしながら、彼女はついに本気で僕を攻め立てる。
 指で輪を作り、硬く張り詰めた僕の勃起を――服の上からぎゅっと握り締めてきたのだ。
「うっ…あああっ!」
 痺れるような快感が僕の男根から走り巡った。興奮し切った性器がやっと訪れた歓喜に
打ち震え、もっともっと快感をよこせと脳に命令を下す。
「ねぇん…通してくれるでしょ?」
「だ、駄目……! ああっ!」
 お姉さんの声が更に甘ったるくなり、同時に僕への愛撫も加速する。服の上からだとい
うのに男を興奮させる手管は完璧で、たちまちのうちに僕は昇り詰めていく。
 絡みつくような手の動きに僕の我慢なんてあっさりと崩壊する。肉棒を包む布地がお姉
さんの手と共に絶妙なまでの快感を生み出し――
「通してくれたら、もっと可愛がってあげる……」
 耐えようとした身体が硬直し、しかし男の芯だけはびくびくと震えた。白い情熱が管を
駆け抜け、快感の奔流が僕の理性を粉々に破壊する。
「あああああっ……!」
 滾るペニスの先端から生暖かい粘液が服の中で弾けるのを感じながら――僕は心身とも
に、この美女に屈服してしまった。
(な……なんて気持ちいいんだ……!)
 こんな快感は初めてだった。
 ほぼ毎晩抜いているけど、これほどの快感を味わったことはない。
 お姉さんが僕のペニスに触れてから30秒も経っていない。しかも服を着たままでの愛
撫だったのに、これほど早く昇天させられるなんて信じられない。二重の衝撃が僕を忘我
の世界へと溺れさせていた。
 しかも彼女はまるで男を知り尽くしているようで――精液を出し終わっても、快感の余
韻が続く間は愛撫を続けてくれるのだ。
 男根がぴくん、ぴくんと震えるうちは、絶頂の瞬間に近い快感が得られるのを、このお
姉さんは熟知している。そうでなければ考えられない技巧だった。
「うああああ……!」
 彼女の経験がひたすらに豊富なことの証明だった。年上のお姉さんに掌の上で転がされ、
僕はえも言われぬ快感を貪るしかない。
 自分がまだ童貞だと思うと、余りの格差からこのお姉さんに負けたような、何だか悔し
いような気分になって――だけど、その負けているという事実に、激しい興奮と快感が沸
き上がるのを抑え切れなくなる。
 自分で抜いたときにこれほどの快感を味わったことはない。このお姉さんが僕に初めて
与えてくれた気持ちよさだった。
 耳元にまたあの含み笑いが聞こえてきた。男を嘲弄し、口の端だけを持ち上げて微笑す
るお姉さんの「くすくす」だ。
「はあっ……はあはあ……」
 荒い息を漏らすしかない。
 辛うじて立ってはいたが、足ががくがくと震え、今にもへたり込んでしまいたくなる。
 余りのことに天を仰いだ僕の視界に、お姉さんの顔がずいと割り込んできた。大人の余
裕、そして嘲りの笑いを浮かべた彼女は途方もなく妖艶で、今まで見た表情の中でも一番
美しかった。
 けれど僕は射精させられた負い目からまともに瞳を合わせられない。ぼんやりとした視
界を彼女に向けるしかないが――多分、それもお姉さんは織り込み済みなのだろう。
 女の意志に屈服させられた男はすべて、その屈辱感から虚空を見つめることしかできな
くなるのだ、ということを。
 お姉さんはふらつく僕の胸をツン…と人差し指で突いた。
 力も何も感じられない、ただの接触のようなアクションだけど――それには優位に立っ
た者の意志が強く感じられた。
 それが伝わったのか、僕はたったそれだけで腰を砕かれ、尻餅をついてしまう。茫然と
見上げれば、絶世の美女が挑発的で凄艶な笑みを浮かべて勝ち誇っている。
「あっはははははは! なあに、そんなに気持ちよかったわけ?」
 射精したときの僕の喘ぐ姿のことだろう。愛撫に耐えられなくなって、情けない声を上
げたことは僕もしっかり覚えている……というか、忘れるはずもない。
 僕を見下したその高笑いすらも美しく感じてしまう。言葉で尽くせぬほどに悩ましく、
心臓の高鳴りは罵倒されてなお激しくなる。
「坊やがイッちゃう瞬間の顔、最後まで見逃さなかったからね。とっても可愛かったよ?
目を閉じて気持ち良さそうにあんあん喘いじゃってさ。ほんと、情けない男ね」
 彼女は完全に僕を見下して面罵し、その長い脚を伸ばしてくる。高いヒールでM字に開
いた僕の脚の間へと一歩踏み込み、未だ興奮冷めやらぬ僕のペニスを踏みつけてきた。
「うああっ!」
 反射的に声が出たのは、圧力のかかる踵の部分で踏まれたのが痛いから――ではない。
むしろヒールで踏まれたことが気持ちよかったからだ。
 性的な倒錯感だけではない。彼女の踏み方と踏む位置が絶妙なのだ。
 反り返った肉棒の裏筋にピタリとヒールをあてがい、痛みを覚えぬように弱い力で踏み
つけてくる。しかも片足でヒールをくにくにと小刻みに動かし、あろうことか僕に快感す
ら与えているのだ。
「あっ、あっ、あああっ!」
 イカされたばかりで敏感な僕の分身は、軽い愛撫にも過剰に反応してしまう。悶える表
情の中で彼女を見上げると、男を悩ませる綺麗な脚が僕の股間から伸びていて、その先に
は魅惑的なガーターベルトが絡みつき、更にその奥には細かくも豪奢なレースで編み上げ
られた黒い布切れが、局部を覆っているのが見えた。
 惜しげもなくそれらや豊満な肉体を晒し、僕を嬲るお姉さんの姿はとても艶めかしい。
圧倒されてしまったことにすら心地良さを覚えて、僕は焦点の合わない視線をゆらゆらと
彼女に向けることしか出来なかった。
「通して……くれるでしょう?」
 お姉さんはそこで声のトーンを一段落とし、冷徹な声で僕に尋ねた。
 けれどその口調には有無を言わさぬ意志の強固さが感じられた。
 肉体だけではなく、精神まで彼女に屈服した僕に逆らう術などあろうはずもなく――
「……は、…はい……」
 蕩けた意識と、とろんとした瞳をさらけ出したまま、僕はうなずいてしまっていた。


 お姉さんは「じゃあね、坊や」と僕に一瞥をくれて、検問所を通り過ぎていった。
 ……僕が正気を取り戻すまで、しばらくの時間を要した。
 どのくらいかはわからない――木々の隙間からオレンジの日光が直接当たるようになる
まで、僕はその場でへたり込み、夢を見ていたような錯覚に囚われていた。
 お姉さんが来た頃は、まだ太陽は西に傾き始めたばかりだった。彼女との交わりだって、
それほど長い時間ではなかったはずだ。ペニスを愛撫された時間などに至っては、たった
30秒にも満たない。
 余程の時間、僕はここで呆けていたのだろう。今日はそれくらい衝撃的なことがあった
のだと、今更ながらに思った。
 お姉さんだってあの格好で山を越えるなんて無理だ。僕が追いかけて来ない所まで距離
をとったら、そこで着替え、靴も履き替えるのだろう。
 もっとも、不法に国境を越えた者とはいえ、今の僕にあのお姉さんを追いかける気力な
どあるはずもない。一人がこの国境を越えたところで、どうせ僕にお咎めが下ることもな
いだろう。これまでも僕や他の警備員が駆け落ちのカップルなんかを見逃したことだって
何度かあるし、それで問題が起こったことなどない。
 だけど、今日はどうしてもあの言葉が引っかかる――「私、悪い人なの。暗殺者なの。
テロリスト」。
 一体、あの言葉の真意はどこにあったのか。僕を性戯で誑し込んであんなことを言う意
味は何だったのだろう。僕には彼女がまったく理解できなかった。
 唯一はっきりしていたのは、あのお姉さんから注ぎ込まれた性の快感と倒錯の悦楽だ。
下着の中に残る不快な粘つきも、今日起こったことが現実だと告げていた……。


 一週間後、驚きのニュースが旅人によって村にもたらされた。
 国境を越えた先、最寄の都市を治める貴族の有力政治家が死亡した、というのである。
 交易商人の話によると、「表向きは病死との発表だったが、実際には暗殺ではないか」
との噂で街は持ち切りだったという。
 村人たちは隣国の出来事を話の種にこそするものの、いつも通りに平穏な日々を過ごし
ていたが――僕だけは違った。
 その貴族を殺したのは、あのお姉さんではないだろうか……。
 僕は一人、そんな疑問に駆られながら、当番の日にはいつものように国境検問所へと向
かう生活を続けていた。
 あの夢のような現実は今のところ、一度だけだ。
 けれど僕は淡い期待を胸に検問所へと向かうようになっていた。
 もしかしたら近いうちに、またあのお姉さんが国境を通るかもしれない。
 暗殺の報がもたらされてからは「いずれ彼女はこっちの国に戻ってくるのだろうから、
また国境に来るかもしれない」――そんな予感と期待、そして願望を混ぜながら検問所に
向かうようになっていた。


 そして暗殺の噂が流れてから5日後――その期待は現実のものとなった。
 隣国へ続く道のほうから足音が聞こえたので、僕は急いで検問小屋の外に出た。
 こちらに歩いてきているのは、やっぱりあの美女だった。
 先日ここを通ったときのように、扇情的で肌の露出度も高い衣装は身につけていない。
ごく普通に旅人が遠出をするときのような格好だ。
 前とは相当に雰囲気が違う。もしかしたら同一人物だと気づかない人だっているかもし
れない。けれど、僕にはわかってしまった。
 旅人の標準的な服装ですら、彼女の色香を隠してはいない。特に上着を内側から押し上
げている2つの豊かな膨らみなどは圧倒的である。
 それに何より――彼女の香りは前と同じだったのだ。
 微かに漂い、けれど確実に鼻腔をくすぐり、嗅覚からも男を愛撫するような香水の匂い。
 彼女は僕の姿を認めると、口の端を小さく持ち上げながら微笑んだ。
「うふふふふ……ボク、また会ったわね?」
 ぞくりとするような凄艶さ。男の本能をかき立てる誘惑の吐息。
 暗殺の噂が流れていることも既に知っているのだろう。あのときと同じように勝ち誇っ
た表情は、「ほらね……私の言った通りだったでしょう? 私を通してしまった情けない
警備兵さん?」――などと、僕を挑発しているように見えた。
 ますます艶めくお姉さんのその仕草を見て、やはり彼女が暗殺者なのだと僕は確信した。
 けれども彼女を逮捕しようとか、逃げて助けを呼ぼうとか、そんな気持ちは微塵も起こ
らなかった。むしろあのときと同じように、性の快感を享受させてくれるのではないかと
いう期待感に僕は満ち溢れていたのである。
 偉い人が殺されたって、僕の生活にはきっと何の関係もない。けれどこのお姉さんに従
えば、決して味わうことが出来ない気持ちよさを与えてくれるかも――そんな都合のいい
期待だけであの日以降を過ごしてきたのだ。逮捕だなんて考えるはずもない。
 お姉さんは僕に近寄ると、また抱き締めてくれた。甘い匂いがふわっと広がる。
「前の約束、守らなくちゃね」
 そうして彼女は、耳元で甘美な言葉を囁いてくれる。
「この間、通してくれたから――今日はもっと可愛がってあげるわ……」



                                THE END

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