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(7-541)

作者:XXXR氏
備考1:女ガンマン
備考2:(7-564)に続く



「あっちぃなあ」
「ですね」
「……腹減ったなあ!」
「私もです」
「………あー! のどが渇いたなーっ!!」
「なら喋らないのが一番だと思いますよ?」
「…………………だぁぁあああああああ腹立つ! 何かお前と話すとスッゲー腹立つ!」
広い広い荒野を、男と女が歩いている。この広い西部でたまたま出会い、奇妙な縁を結んで、一緒に旅をする二人組だ。
前の町を立ってはや二週間。紆余曲折の末、水も食料も切らした彼らは、今ようやく次の町をその目にしたところだった。

叫んでいる女の名は、ニキータ。周りにはニッキーと呼ばせている。
ブーツにジーンズ、腰にはガンベルト。ジャケット姿にテンガロンハットという、この地域ではおなじみのガンマン姿だ。ただし、ジーンズはぼろぼろで太腿も尻も丸見えであり、ジャケットの下のワイシャツは、豊満な胸を仕舞いきれず、第三ボタンしかはめていなかったが。
しかしそんな姿も、美しいスタイルを持つ彼女には似合っていた。全く手入れされていないブロンドの髪が無造作に風に流されているのも、逆に彼女のワイルドさを引き立てているように感じる。



冷静に応える男の名は、ジャップ。無論、本名ではない。
一応一度は名を聞いたのだが、ヤジロベーだかドクロベーだかいう聞き慣れない発音だったので、ニッキーは覚えるのを諦めた。よって、彼の出身国「ジャパン」を略したジャップで呼んでいる。
どうせこの西部に、他にジャパニーズなんぞいるはずがない。この呼び方で困ることはないだろう。


「仕方ないでしょう。途中で野党に出くわしたせいで、予定がずれちゃったんですから。大体あなたが連中の火薬庫を吹っ飛ばしたりしなければ……」
「お前、それを言ったらそもそもなあ……」
なんやかやで二人とも、言い争う気力はあるらしい。そうこうする内町に入り、酒場の看板を掲げた店を見つけ、席に着いたとたん、

「一番高い飯と、酒!」
「一番安いやつと、水をお願いします」

と、同時に注文を出し、再び口論を再開した。
「で、これからの飯はどうする? アタシは多分、今ので使い切るぜ」
「私もそろそろ厳しいですねえ。……この辺に農家でもあれば、行って手伝って、収穫物を分けて貰うんですが」
「見た感じ、そりゃ無理そうだったぜ」
「ですよね。いっそ『あの時』みたいにできれば、助かるんですが」
そう言葉を交わしながらも、ジャップはそこかしこからの、何となくねっとりした視線を感じている。原因はわかっている。店の中の男達が、自分の向かいにいるニッキーの、胸やら尻やら腿やらを視姦しているのだ。

彼女にしてみれば「これ」こそが商売道具なのだろう。しかし流れ弾のようなものとはいえ、男の自分がこんな視線の矛先にいるのは不快でしかない。

「おい姉ちゃん、見かけねえ顔だな」

それにこういう、面倒くさい連中もやってくる。
「話は聞いたが金がねーんだって? だったらよお、いい小遣い稼ぎ教えてやんよお」
「そーそー、オレ達とちょっと宿に泊まってくれたらよお、たっぷり稼げるぜえ、なあ」
すっかり鼻の下が伸びて、だらしのない半笑いだ。仮にも女を口説きたいのなら、もうちょっと気取った言動はできないのだろうか?
「ニッキー、済ませるなら早く済ませてください」
「ああん? なんだお前その態度は?」
連中が今度はジャップに絡み始めた。これもいつもの事だ。彼女と共にいる自分が「そういう関係」だと勘違いするのか、ニッキーに近づくガラの悪い男どもは、大体彼にケンカを売ってくる。


「なんだお前、ひょろっひょろのなよっちいガタイのくせに、さっきから俺らを無視してふんぞり返りやがってよお」
ただ黙って座っていただけだ。それが偉そうにふんぞり返っているというのなら、そこのカウンターで黙々とグラスを拭いている男にケンカを売って欲しい。
「『どうせ俺の女だから好きに口説いてください』ってか? 余裕かましてんじゃねえぞ」
好きに口説けとは思っているが余裕ではない。どうぞ寝床でも極楽でも、好きに連れて行って貰うがいい。

「大体なんだその、腰の棒は?」
「てめえのモノに自信がねえのか? 夜はそれで突くのかよ、おい」

カチャリと、突然金属音がした。
「あ……ああ……ふぁふぁ……」
男達の中で先頭にいた男が、何かを発しようとするも、声にならずにばったりと倒れる。
ようやく事態に気づいた周囲のテーブルから悲鳴が上がる。何人かの男達が、ドタドタと集まってきた。

「お、お前ら! 今、誰に手を挙げたかわかってんのか?」
「この人はなあ、この町を牛耳るカンパッチョファミリーの……」
ドカン
と、音を立て、切られた男の身分を明かそうとした男まで蹴り飛ばされる。彼を蹴ったのはニッキーだった。
蹴り飛ばされた男の向こうには、料理を持って唖然と立ちすくむ女性がいた。
「ああ、料理はここに置いて、金は……」
と、ニッキーは倒れている男や、先ほど蹴った男の懐を探り、金貨の入った袋を見つけ出す。
「よし、こっから貰っといて」
そう言って、袋を店の女性に渡してしまう。女性は未だ混乱気味だったが、それ故に大人しく金貨を受け取り、そそくさと戻ってしまった。
「ずるいですね」
「賢いのさ」
そう言葉を交わして、テーブルに着き食事を始めるニッキー。目の前の連中とのゴタゴタなど、既に片付いたと言わんばかりである。
「ふ、ふざ、ふざけんじゃねええええ!」
そう言ってチンピラ達が腰の銃を抜こうとした時、



「止めねえか、お前ら」

店の入り口から、ドスのきいた声が響く。
店内の全ての人間が、一斉に声のした方を振り向く。先ほどから、何が起きても黙ってグラスを拭いていた、初老のバーテンすらも例外ではなかった。
「あんまりわめくと底が知れるぜ。悪ぃな、どうやらウチの三下が失礼を働いたみてえだ」
そう言いながら、男はのしのしと店の中に入り、無理矢理客を退かした椅子に、どっかりと座り込む。動き回るだけでやたら大きな音を出す、ダルマのような厳つい男だった。
「あなたは?」
「今ちょっと名前が出た、ファミリーのボスだよ。カンパッチョだ」
カンパッチョは咥えた葉巻をテーブルに押しつけ、さっきまで座っていた客の注文した、食べかけの酒や料理を頂戴し始めた。その姿に、ジャップは僅かに眉をひそめる。

しかし、ニッキーの方は、逆に目を輝かせ始めていた。いきなりカチャリと腰の銃を抜くと、カンパッチョに向かって構える。
「ほう、姉ちゃん。面白い銃だな」
彼の言う通り、彼女の銃は特徴的な形状をしている。左右に突き出すように、たっぷりと弾が装填された、大きなリボルバーが二つ。その間から、異様なまでに太い銃身が、何かを誇示するかのようにそそり立っていた。
「前の持ち主は『ビッグ・マグナム』って呼んでたぜ。意味は……わかんだろ?」
ニッキーはにやりと笑い、愛銃の銃口にキスをすると、舌を伸ばしてぬらぬらと舐め回しす。たちまち店内を淫猥な空気が支配し、男達の相貌が再び崩れ始めた。
特に、その動作の意味するところを察したらしい、カンパッチョは実にご機嫌だ。
「ほお~いいじゃねえの。姉ちゃんは今夜はウチに泊まりてえと、そういうこったな?」
「ついでに、こんな店のより上等な、肉や酒も欲しいね」
「……ついてきな」
そうして二人は並んで店を去っていく。後には子分達が続いた。カンパッチョは早速ニッキーの腰に手を回していたが、彼女もそれを拒否しない。
残された店の中には、男共の何か残念そうな空気が漂っていた。




「ごちそうさまでした」
と、そんな空気を壊すように声が響く。ジャップが食事を食べ終えた声だった。もっとも彼の母国語なので、その言葉の意味がわかった者はいなかったが。
「ああ、親分さんも文句は無いみたいですし、全員支払いはさっきのお金で、という事でいいですよね?」
「え、ええ……あの、よろしいんですか? お連れの方が……その……」
給仕の女性は、恐る恐るジャップに話しかける。ちょっとかわいそうな人を見る目つきである。
「ああ、いいんですよ。『たまたま』ここまで一緒だっただけの人ですから。それより娘さん、あのカンパチとかいう柄の悪い連中は、良くこの店に来るんですか?」
「かんぱ……ああ、カンパッチョの事ですか? 大きい声じゃ言えませんが、この辺の盗賊の元締めなんですよ。町の近くにアジトがあって、ここじゃあ顔役みたいに振る舞ってるんです」
「へえ、野党の元締め、ねえ」

「何でも最近、手下の盗賊一味が一つやられて、大事な火薬庫まで吹き飛んだとかで、若い連中が荒れているんですよ」
「なるほどねえ。一つ提案ですが、しばらくここでやっかいになっても構いませんか? お店も手伝いますし、そういう事なら男手は多い方が良いでしょう?」
「はあ、まあ宿もないような町ですし、構いませんが……」
「わかりました。じゃあ早速、この皿は自分で洗いますね」
そう言ってジャップは立ち上がると、てきぱきとテーブルの皿を片づけ、ついでに先ほどカンパッチョが食べてしまった皿も持つと、厨房へ歩いていく。随分とこなれた動作である。どうやらこういった事をするのは、珍しくないらしい。
「ああ、そうだ」
と、くるりと振り返って笑顔を浮かべた。
「名前を名乗るのが道理ですよね。私はヤジリ・クロベーといいます。呼びにくいようでしたら、『ジャップ』で構いませんよ?」

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