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射撃戦隊ガンレンジャー(4)

作者:XXXR氏
備考1:戦隊もの
備考2:

「やーい! やーい! 泣き虫ワタルー!」
「返してほしけりゃここまでおいでー!」
「……ん?」
学校からの帰り道。種子島大介が遭遇したのは、数人の少年少女にはやし立てられながら、涙を流して追いかける子供の姿だった。
「おいこら! 何やってんだお前ら!」
大介が怒鳴りつけると、子供達は散り散りになって走り去ってしまった。
「あ、おい! 待て! 待てってば! ……あ~、えーっと……」
大介は少々気まずそうに後ろを振り返る。そこには、一人残された少年が俯いていた。

「えっと、ワタル君だっけ? ごめんな。余計なことしちゃったみたいで」
近くの公園のベンチに座り、二つ買った缶ジュースの一方をワタル少年に渡す。ワタルが口を付けるのを見ると、大介も一口飲み、ふうっと息をついてから、おもむろに口を開けた。
「突っ込んだこと、聞いちゃうけどさ。いっつも、あんな感じ?」
コクリ、と、ワタルは頷く。と、何かに気付いた様で、ズボンのポケットから小銭入れを取り出した。
「ああ、いいよいいよ。オレのおごり。その代わり、そっちの事情とか、教えてくれないかな?」
ワタルは首を傾げる。何故そんな事を聞くのか? と尋ねたいようだ。
「いやさ、お兄さんその道では君の先輩みたいなもんだから。何か力になりたいなっと思って」
だめ? と今度は茶目っ気を込めて大介が首を傾げる。
その仕草は壊滅的に似合っていなかったが、何とかワタルは警戒を解いてくれたらしく、ぽつり、ぽつりと語り始めた。

元々ワタルは気も弱く、勉強も運動も少々苦手な少年であり、クラスでの立場はそんなに良いものでは無かったらしい。特に体躯が小さい事は、以前からよくからかわれていたようだ。
しかしそれが明確なイジメになったのは、今年新しい学年に上がってすぐ、クラスでディベートを行った時のことだった。
「……ごめん、ディベートって何?」
「一つテーマを決めて、二つの意見に別れて話し合うんです。その時は国語の授業で、エッセイの一文をどう解釈するかっていうのがテーマだったんですけど……」
話し合いは長引き、それにつれて生徒達のボルテージも上昇していった。
ワタルもまたいつになく熱くなってしまい、女子の一人と激しい論争になった。結局その時は、先生がワタルの意見を支持した事で一応の決着をみたのだが。
「その女の子と、女の子の友達が、君をいじめるようになった訳だ。で、君が強く出られないでいると、いじめっ子がだんだん増えていって……今じゃあの通り、と」
「何でわかるんですか?」
「まあ、そこまで聞けば大体ね。イジメのきっかけって、結局どれも似たり寄ったりだし」
イジメというのは、大抵の場合いじめられる側の何かが、いじめる側を不快にさせた、というのがきっかけである。
「何か」は何だって良い。何かしらの事件があって犯人と疑われてしまったり、クラスのリーダー格と対立したことで結果的に大勢の人間を敵に回してしまったり。
もしくは、普段の態度が気に食わないという理不尽な理由でヤキを入れられたりするのだ。
「君の場合は2番目のパターン。オレの場合は3番目だったね。オレってあの頃は、あんまり人と話さないネクラ小僧だったし」
そうして大介は、今度は自分の話をする。

本を読んでばかりで、話すときはほとんどが年長者相手だったこと。おかげで大人受けは良かったが、同級生には疎まれる様になり、やはり女子のグループを発端としてイジメが始まった事。
少し悩んだが、何をされたのかも具体的に話した。
「まあ今考えると、同い年の奴らを馬鹿にしてる様に見えてたんじゃないかな。お前らなんかと話してられっか、みたいな」
「それで、大介さんは、今も?」
「いや、今は大丈夫。高校じゃあ楽しくやってるよ。同級生にも、友達たくさん出来たし」
まあ色々あったけどね……と、小声で付け足す。
結局自分はイジメの泥沼から自力で脱出する事は出来ず、追いつめられた挙げ句にとんでもない行動に走り、学園中をひっくり返す大事件を起こしてしまった。
それによって発端となったイジメも注目を浴び、中心になっていた少女が急に宗旨替えした事もあって、イジメグループはあっけなく解散になった。
これが、事の顛末だ。
「けどさ、あの時は結局最後まで、自分じゃ何もできなかった」
大介はジュースを飲み干し、立ち上がって缶をゴミ箱に捨てる。そのままワタルに向き直り、中腰になって視線を合わせた。
「ワタル君はさ、どうしたい?」
「えっ?」
「今の状態はいや? いじめられるのは、いや? もしそうなら、これから言う事、よく聞いてほしいんだ」
大介は、半年前、自分が初めて変身した時のことを思い出していた。
あの時、自分は何を考えていただろう?
そうだ。目の前で苦しんでいる人たちを見て、かつての自分を重ね合わせていた。
助けたいと、そう思ったから。何もできないままでいるのは、もういやだったから。だから自分は、ヒーローになる事を選んだのだ。
大介は息を吸い、力を込めて言った。

「泣いたって、だめだ。
 やめてって言ったって、聞いちゃくれない。
 でも、だからって、そこであきらめちゃだめなんだ。
 泣くよりも、言葉にするよりも強く、自分の気持ちを、みんなに見せつけるんだ。
 怖くても、勇気を出して、動き出すんだ。戦うんだ。
 ……そうじゃないと、なんにも変わらないんだよ」

一方、時間は遡り、大介に怒鳴られていじめっ子達が逃げ出したすぐ後の事。
一人の少女が町を走っていた。年は小学生ほどと思われるが、それを一瞬疑ってしまうほどに背が高く、大人びた顔つきをしている。目つきの悪さが大きくマイナスだが、それでも文句なしの美少女だった。
少女は角を曲がった所で、人にぶつかる。しかしそれで止まる事は無く、黙って去ろうとする。
「こら!」
しかしその時、少女の服の襟が後ろから掴まれる。見ると、掴んでいるのはぶつかった女性だった。実際には相手は学生服を着ていたが、少女が大人と認識するには充分だった。
「ごめんの一言くらい、あってもいいんじゃない?」
そのまま女性は、自販機の近くにあるベンチへと少女を引っ張って行く。
それほど力を込めている様には見えないが、抵抗してもその手が解ける事は無く、仕方なく少女はその女性に従った。

華美と名乗った女性は、自販機から飲み物を二つ取り出して一つをこちらへ投げてきた。
「えっと、メグミちゃんでいい?」
「あ……うん」
とりあえず折角だからと渡された飲み物を見ると、それはちいさなペットボトルに入った、この自販機で一番安いミネラルウォーターだった。
華美は自分の飲み物を開け、美味しそうに飲んでいく。そちらはジュースだ。
「さてと……」
さっさと飲み干してゴミ箱に投げ込むと、華美はおもむろに口を開く。
「さっきさ、何であんなに急いでたのかな?」
メグミは答えない。しかし華美には、もう大体察しは付いていた。
大介の怒鳴り声は彼女にも聞こえていたし、先ほど曲がり角の向こうを見たら、彼は何やら俯いた少年に話しかけていた。
大介が思わず怒鳴ってしまいそうな状況など、華美にしてみれば簡単に想像できる。
「まあ、別にいいけどさ」
そう、これは自分で気付かなければいけない事だ。
だから、自分があまりどうこう言ってはいけない。
「けど、一つだけ言っておく」
それでも、一つだけ。

「そのうち、わかる時が来る。だからその時、自分が今までやってきた事とか、これからしなきゃいけない事とかについて、よく考えなさい」

それだけ言うと、華美はそのまま踵を返してその場を去った。

「う~む」
「何? 唸っちゃって」
駅前の大きな書店。大介と華美は、大介のいつもの特訓の後にそこで待ち合わせて、本日発売のマンガを買っていた。
「いや、ついさっきね、ガラにも無くお説教なんかしちゃってさ」
「へえ、そうなの」
「うん。それでさ、何だかのめり込んじゃって、色々言い過ぎたんじゃないかなって」
大介はため息をつきながら、レジへ行く途中にあるCDコーナーへと足を向ける。さっと見回すと、新曲コーナーにあったものを一枚手に取った。
「ふうん。私は逆かな」
「何、そっちもなの?」
「うん、私の方はさ、もっと色々言っておくべきだったんじゃないかなって」
「そっか……。お互い、まだまだ人に偉そうな事言えるほどじゃないみたいだねぇ。……あ、これお願いします」
「そうね。多分私には、そんなの一生無理だと思うけど。……あ、これも一緒で」
そして会計を済ませると、この日はそのまま別れたのだった。

翌日。授業を受けていた二人は校内放送で職員室へ呼び出される。もっとも
「理由はわからんが早退させろと偉い人が言ってきた」
と言ういつものやつだったので、早々に帰り仕度を済ませ、ブレスで基地の羽柴女史に連絡を取る。
「もしもし、羽柴さん?」
「ああ、もう準備できてる?」
「はい。それで、今回は何処に?」
「私立大成小学校に出現。無差別破壊によって、校舎の一部が損壊して、子供達が閉じこめられてるわ」
「……何ですって!」
大介が急に大声を上げる。
私立大成小学校。それは、昨日出会ったワタル少年の、胸の名札に書かれていた学校名だった。

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