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シャドーマン陥落(1)

作者:オシリス・キー氏
備考1:女幹部×少年ヒーロー
備考2:「敵のガーネットはドラゴノーツのガーネットとかぶせていただければ」(作者氏)
 ネオン煌めく東京都新宿。
 そのとあるビル屋上で、でっぷりとした腹をさすっていた巨漢……グレゴールが声を荒げる。

「今日は絶対に負けられんのだ! 者ども、かかれぇ!」

 グレゴールの後ろに控えていた黒服の男達が、月の照る空へと一斉に跳躍する。
 狙いは、隣のビルの天井に立つ、奇妙な格好をした男。
 黒いレザー地のマントとタイツに身を包み、小柄で華奢な体のラインを浮き上がらせる男は、
流線型の金属製バイザーをかぶっており、一見はただのコスプレをした少年といった風体。
 しかし、バイザーによって顔を隠したその少年は、今まで幾度となく、
世界の平和を守ってきたヒーローなのだ。
 その名もシャドーマン。
 世界征服をもくろむ悪の結社、「竜の牙」の活動を、その身ひとつで阻み続けてきたバケモノ。

「死ねぇ!」

 最初に飛びかかった黒服の男……竜の牙の下っ端が、シャドーマンに殴りかかる。
 しかし、シャドーマンは自然な動きでその拳を受け止めると、落下の慣性を利用して下っ端を叩き伏せる。
 続く下っ端からの攻撃も難なく避けては、一撃でもって一人一人を片付けてゆく。

(くそっ……このままでは……!)

 グレゴールは唇を噛みしめる。
 そう、今日シャドーマンを倒せなければ、「竜の牙」地球侵略部隊、一番隊隊長グレゴールは、
総帥の命によってお役御免となってしまうのだ。
 幾度となくシャドーマンに負け続けたツケとはいえ、竜の牙きっての無頼派と言われたグレゴールが、
一度としてシャドーマンに勝つことができなかった、という無様な結果を残すわけにはいかない。
 懐に入れておいたショットガンの安全装置を外すと、
シャドーマンと部下達が乱闘する中に狙いを定め――!

「死ねぇ!」

 発射。
 ショットガンから放たれた散弾は、グレゴールの部下達をも巻き込んで血飛沫を散らせた。
 次々と倒れてゆく部下達。
 その一人が、ずれたサングラスの隙間からこちらを睨んでいた。

「お前達のせいなんだよ!」その瀕死の部下達に向かって、唾を吐きちらしつつ声を荒げるグレゴール。
「お前達が弱いから、今まで失敗続きだったんだろうが! 最後ぐらい俺様の役に立てっつーのクズ共めが!」

 やがて、誰もが動かなくなったのを確認してから、グレゴールは隣のビルへと飛び移る。
 飛び散った肉片を踏みつぶしながら、死体の群れの中央へ行くと、そこには黒いマントが落ちていた。
 小柄な肉体を包むマントは、深紅の血に浸かっていた。

「ふふ……ふはははは! 殺した、殺したぞ、俺がシャドーマンを殺したんだ!」

 グレゴールは哄笑しながらマントの裾を掴む。
 その時になって、やっと違和感を感じ取った。
 散弾によって粉々になった部下の肉体。
 その中で、穴一つ開かずに落ちていたマント。
 ――防弾性!
 マントを翻すと、そこには小柄な部下の死体があった。

「卑怯者め」

 その声は背後から。
 グレゴールが振り返る間もなく、脇腹に衝撃。
 吹き飛び、鉛筆のように横転する巨体。
 やがてその動きが止まり、ぐらつく視界の中に立っていたのは、無傷のシャドーマンだった。
 ――いや、無傷ではない。左足首から血が滴っている。
 どうやら、防弾性のボディスーツの隙間に散弾が入り、傷を負ったらしい。
 しかし、それは現状において、窮鼠猫を噛む以上の意味を持たない。

「く、くそっ……!」

 グレゴールは震える体をなんとか御して後じさる。それを追ってくるシャドーマン。

「もうこれ以上、人間界に踏み入るな。でないと次こそ地獄に堕とすからな」

 シャドーマンはそう言うと、グレゴールを強く睨みつけてから、夜空へと飛び立っていった。

「――無様ね、グレゴール」
「!」

 恐怖に全身を震わせていたグレゴールは、後ろから響いてきた女の声に全身を硬直させる。
 振り返ると、そこには褐色の肌を露出させた背の高い女が立っていた。
 紫色の軽鎧に身を包み、豊満な胸や臀部を惜しげもなく見せつける、銀色の髪をした女。
 褐色の肌は月光に照り、メリハリのあるボディを更に扇情的にしている。
 この女こそ、グレゴールのライバルであり、地球侵略部隊二番隊隊長であるガーネットだ。

「総帥より、任務失敗の暁には貴様を殺す許可をいただいている」
「が、ガーネット! 貴様、こんなに近くにいたなら、手助けしてくれても……!」
「ふざけるな。誰が貴様の穴だらけの作戦になど乗るものか。
猪突猛進、毎度毎度飽きもせず正面から殴りかかってあっさり返り討ち。
そんな知性のかけらもない作戦で命を落とした貴様の部下共に同情するよ」

 そう言って、ガーネットは腰元の長剣を抜き、剣先をグレゴールの顎にあてがう。
 唾を飲むグレゴール。上下したのど仏がその剣先に食い込み、血がしたたる。

「……しかし」と言って、剣を鞘に収めるガーネット。「傷一つつけられただけ、
役に立ったと言うものだ。命だけは許してやろう。それに……」

 ガーネットは死体の海の中へ、高いヒールでもって踏み入ると、
中央に落ちていた血だらけのマントをつまみ上げて続ける。

「このマント。これで奴の力の源が解析できるというものだ。おい、サクラコ」
「――――!」

 グレゴールは目を疑う。
 ガーネットが呼びかけたと同時に、どこからともなく女が現れ、ガーネットの横に現れたのだ。
 サクラコ――ガーネットの参謀を務める女は、何も言わずにそのマントを受け取る。

「材料を解析して、生産元を突き止めろ。あと、足下のあたりにシャドーマンの血痕が付着しているはずだ。
こう血まみれでは解析も難しいだろうが……奴が人間とは違う生き物なのか、
それとも着ているスーツによって強化されただけの人間なのか。
それだけ判明すれば打つ手も広がる。急げ」
「はっ」

 短い言葉を残して、夜闇の中へと消え去るサクラコ。

「さて……あとは保険の結果を待つだけだ」ガーネットはグレゴールを無視してビルの屋上の縁に立つと、

ネオン煌めく新宿の町を睥睨する。「シャドーマンよ。この私が相手となるからには、
今までのように一筋縄にはゆかんぞ? ククククッ……!」

 深紅のリップを引いた唇に含んだ笑みは、やがて哄笑へと変化する。
 その邪悪な、それでいて妖艶なガーネットの姿を見ながら、グレゴールは屈辱に肩を震わせていた……。



 新宿都庁の隣に立つビル、そこが僕の秘密基地だ。
 痛む足をかばいながら、ビルとビルの間を跳んできた僕は、
やっと自分のビルの屋上に到着して胸をなで下ろす。
 腕時計を見ると、ここから出動して10分になろうかというところだった。
 やがて、ちょうど10分が経ち――その瞬間、僕の全身を包んでいた黒のボディスーツとバイザーが光に包まれると、
タンクトップにボクサーパンツという肌着姿に戻ってしまう。

「うっ、寒い……!」

 ビル風に当たる肩を抱えながら、屋上の隅……ヘリポート横に設置されたエレベーターへと向かう。
 そう、僕……桜田虎之助は、人知れず人類を守り続ける正義のヒーロー、シャドーマンなのだ。
 先祖代々受け継いできた変身能力によって、まだ未成年である僕は、
鋼鉄よりも固いボディスーツに身を包んだ勇者へと変身する。
 先代が急遽亡くなった都合上、まだ修行の足りない僕は、十分程度しか変身を保っていられないけれど、

それでも今まで半年近く、悪の結社「竜の牙」による地球侵略を阻み続けてきた。
 しかし、今日は油断してしまい……

「スーツの隙間に散弾が入ってしまうなんて……なんて未熟なんだ」

 悪の幹部、グレゴリーによる卑劣な不意打ちだったとはいえ、避けるタイミングを逸してしまった。
 これは相手が強かった云々の問題ではなく、ただ僕が未熟だっただけの話だ。
 そう考えなければ、今後勢いを増すであろう、竜の牙に対抗できやしない。

「武上さんに治療薬を用意してもらわ……っ!?」

 エレベーターの扉が閉じようとした瞬間。
 ネオン渦巻く町のどこかから視線を感じた。

(もしかして、グレゴールが?)

 下り行くエレベーターの中で、僕は嫌な予感に背筋を凍らせる。

(いや、奴は恐怖して動けなかったはずだ……)
(でも、ここがばれると大変なことに……)
(……いや、考えすぎだ。初めて実戦で傷を負ったから、不安になってるだけだ)

 やがて、扉が開く。
 そこには、僕の執事である武上さんが立っていた。

「坊ちゃま、お帰りなさいませ……むっ! その傷は!」
「うん、かすり傷だけど、やられちゃった……早く治療を」
「承知しました」

 そう言って医療室へと向かう武上さん。
 このビルには大抵の施設が揃っており、シャドーマンとして活動する上で困らないように出来ている。
 これも、世界の平和を守るために世界中の財団と交渉して、財産を築き上げた先々代のおかげだ。
 シャドーマンの秘密がばれないように、ビル下層部の桜田財団関係施設以外には、
外部の人間が入れないようになっている。 
 なので、こうして傷を負った時も、執事である武上さん以外に頼れる人がいないのだ。
 ふかふかのソファーに座りながら、武上さんに足の治療をして貰う。

「坊ちゃま」武上さんは冷静な声音で言った。「おこがましい話ですが、
この老いぼれにこれ以上、心配をさせないでください」
「おこがましくなんてないさ。僕を子供の頃から面倒を見てくれたのは武上さんだよ。
今後はもっと修行して、こんな目にあわないようにするから」
「お願いいたします。この老いぼれも、そう長くないでしょうからな……」
「なにを言うんだ」
「もちろん冗談ですよ。虎之助様の次代が育たれるまでは、不肖武上、死んでも死にきれませぬ。
ただ、このようなつまらぬ冗談を言わなくても済むよう、ゆめゆめ怠りなくご自愛なされますよう……」
「わかってるよ。次からは完璧にやるさ。安心して」
「ありがとうございます」

 包帯を巻きながら頭を下げる武上さん。
 六十を超えながら、動きは機敏で老いを感じさせない武上さんは、
父の代から桜田家に仕えているベテランの執事だ。
 シャドーマンの秘密を守るため、僕の世話は全て武上さんに任せている。

(……もし今武上さんがいなくなれば、僕はどうすればいいのだろう?)
「もし私に何かあっても」そんな声に出せない僕の疑問に、話の流れから答える武上さん。
「ご安心ください。不測の事態に備え、次代の執事は選別してあります。
執事を育てるための国際機関において、特Aランクを取得した優秀な執事でしてな。
葵という名のヒヨッコですが、今度、虎之助様にご挨拶に来るよう伝えましょう」
「……大丈夫さ。武上さんに何かあったら、なんて、考えたくもない」

 にっこりと柔和に笑う武上さん。
 僕は安心して、痛む足首を武上さんに預ける。
 その時、僕は想像を拒んでいた現実。
 まさか、それがその次の日に訪れるだなんて、思いもしなかったんだ。

 ◆

 心臓発作によるショック死。
 買い物にでかけていた武上さんの死因は、そんなありふれたものだった。
 葬式は行わない。桜井家の関係者は、その仕事の内容上、公な儀式を行う訳にはいかない。
 結果、僕は一人、この広いビルの上層でぼんやりと日々を過ごすしかなかった。
 正義を守る僕に、学校に行く義務はない。
 それは日本国によって特例許可が下りている。
 だから、僕は武上さんに勉強を教わり、武上さんに武術を教わり、
武上さんに全ての世話をして貰っていた。
 その武上さんを失った以上、僕は正義を守ることすらままならなくなってしまったのだ。
 僕は、冷蔵庫に残っていたジャムを舐めながら鏡を見る。
 そこには頬の痩せこけた、正義の味方とは到底思えない子供の顔があった。

「今日……今日、葵さんがやってくる」

 そう。武上さんが死んで三日目。
 武上さんの死は警察から知らされた。
 公共機関の情報経路から執事育成機関へと連絡が伝わったらしく、
早速明日に代替の執事を向かわせる、という旨の書かれた手紙が送られてきたのが昨日。
 今日、武上さんが言っていた葵さんがやってくるのだ。
 恐らく、二十~三十歳の男性の方だろう。どんな人なのだろうか。
 何より、このままでは僕が餓死してしまう。
 空になったジャムの瓶をゴミ箱に入れたところでチャイムが鳴る。

「来た!」

 僕は、まだ傷の完治しきらない足をもつれさせながら、エレベーターの扉へと向かった。
 このビルは四十階以下が、桜田財団の基幹企業に貸し出されており、
それ以上の階層は存在しないことになっている。
 財団企業によってカモフラージュされた、僕の住む四十一階に入るには、
指定のエレベーターのコンソールからパスワード入力が必要であり、
それを知るのは僕の執事しかいない。
 エレベーターの前に来ると、改めてパスワードを入力させてから、解錠を許可する。
 両開きの扉の中から現れたのは――。

(お……女の人?)

 そう。そこには、背の高い女性が立っていた。
 褐色の肌に、艶のある化粧を施したその女性は、
メリハリのある体をスーツに包んでおり、短いスカートから長い脚が伸びている。
 高いヒールを履きこなしたその女性は、
まさに仕事の出来るキャリアウーマンといった風体、
それでいて銀色の髪をなびかせ微笑する様は、
どこか艶美さを感じさせる。
 今まで、死んでしまった両親や武上さんの他に人と接すること自体皆無だった僕は、
その女性を見て、人見知りとは別の意味で硬直してしまった。

「こんばんわ。古明寺葵と申します」

 上品な仕草で挨拶する葵さん。
 僕は、どうも、と小さくつぶやくにとどまった。

『葵という名のヒヨッコですが……』

 武上さんの口調から、男性だとばかり思いこんでいた僕は、
その不意打ちに言葉を失うほかなかったのだ。

「宜しくお願いいたします、虎之助様」

 しかし、そんな僕の事情を知らない葵さんは、
冷静にそう言って僕の元へと歩み寄ると、僕の手を掴んで胸元に寄せた。
 豊満で柔らかな葵さんの胸の感触が、手の甲に伝わってくる。

「よ……よろしく、あおっ、葵さん……?」
「? どうかなされました?」
「い、いや……男性だとばかり思っていたから……」
「子供の頃から、名前が男性っぽいと言われますわ」

 そう言って、再びニッコリと笑う葵さん。
 そうだ。葵、なんて名前、男だけの名前じゃない。
 僕が勘違いしていただけじゃないか。
 葵さんは僕の姿をじっくりと見てから、眉根を寄せた。

「ご主人様……」
「ご……ご主人様?」
「そうです。お仕えする方の呼称なのですから当然ですわ。それより、ご主人様……
……お風呂に入られていないでしょう? それに、食事も取られていない様子……
……それだけ先代の武上に生活を頼っておられたのですね」

 そう言って、僕の服を脱がしにかかる葵さん。

「ちょ、ちょっと待って! それぐらい、僕が……」
「いえ、お風呂にも一人で入れていなかったのですから、
無理矢理にでも入っていただきます」

 そうやって強引に裸にさせられると、僕は一人風呂場に放り込まれた……。

 ◆

「潜入成功。これより作戦を開始する」

 台所から、衛星経由の無線で部下へと連絡する葵。
 いや、葵というのはもちろん仮の名前。
 彼女の名前はガーネット……そう。悪の結社、竜の牙の地球侵略部隊二番隊隊長だ。
 シャドーマンが住処へと戻るところを部下につけさせていた所、
このビルに入っていったことを突き止めたガーネットは、
すぐさまこのビルの由来を調べた。
 どうやらここは世界各国の財団より寄付を受けている財団らしく、
しかしそれに値するような事業は行っていない。
 そして、ビルの構造上、明らかに上層の作りがおかしいことを知ったガーネットは、
ここのビルの居住者がシャドーマンの関係者であることを推察。
 そのビルより、毎日出てくる老人を拉致し、薬で拷問したところ、これがビンゴ、
シャドーマンの執事であることが判明。
 あとは、その老人を薬投与で自然死に見せかけて放置。
 間もなくやってきた怪しい男……古明寺葵を拉致して殺害。
 その男女ともとれる名前を利用して、
悪の幹部であるガーネット自らがシャドーマン……桜田虎之助の住処に入り込んだ、という訳だ。

「見たところ、世間知らずのガキのようだ……ああ……まあ、上手くやるさ」

 そう言って無線を切る。
 とりあえず、当面は怪しまれないように表立った活動を控える必要があった。
 まだ子供とはいえ、
相手は竜の牙一の非情と知られるグレゴールを完封し続けた正義の味方なのだ。
 ガーネット自身も、このビルに入る際の身体検査の都合上、武器の類は持ってきていない。
 ここまで来たとはいえ、グレゴールのように正面から戦って勝ち目などないのだ。

「そう、焦る必要などないのだ」ガーネットは冷蔵庫を漁りながら邪悪に笑った。
「マントの件や、血液の検査結果の問題もある。まずはひとつひとつ作戦を遂行すればいい。
そう、いつも通りやればいいのだ。
私がここまでのし上がった時のように、男の劣情を利用しさえすれば……」

 ◆

「うぅ……お風呂なんて入れないよぉ……」

 僕は浴室で体を濡れタオルで擦りながら呟く。
 大きな湯船が三つ並ぶこの浴室は、人が三十人ぐらい入れるスペースはあるものの、
利用する時はもちろん一人だ。
 武上さんがいた時だって一人で入っていた。
 今までお風呂に入るのを躊躇っていたのは、
武上さんが死んだことのショックもあるけれど、
何より足の怪我が原因である。
 まだ完治していない以上、湯船につかるわけにもいかない。
 だから、せめて包帯が取れるぐらいまで直ってから入ろうとしていたのだ。

「まあ、仕方ない……汗だけ拭いておこうか」

 体中についた垢を落としながら、僕は新たな執事、葵さんのことを考えていた。

(女性だから、執事じゃなくてメイド、ってことになるんだろうか?)
(そうだ、執事だったら男性のはずだ。執事養成の国際機関にいたのであれば、男性なんじゃないのか?)
(もしかして彼女は竜の牙のスパイとか……でも、今までグレゴールと戦っている最中に女性は見なかったし……)
(それに、疑うのはいけない。彼女は武上さんが仕事を任せられると信頼した人なんだから)

 そうこう考えていると、浴室の扉が開く音がする。
 見ると、そこには見るも恥ずかしい服に身を包んだ葵さんが立っていた。
 メイド服、というのだろうか。
 フリルのついた服は、サイズが小さいからだろうか、
ボタンの裾から彼女の胸元をきわどく露出させていた。
 また、スカートは見ていてハラハラするほど短く、
葵さんがこちらに歩いてくる度に、スカートの裏地の

フリルや、白いショーツの底をちらちらと見せつけてくる。
 僕はただ、呆然とその姿を眺めているしかなかった。

「ご主人様」葵さんは僕の眼前にまで来ると、膝をついてお辞儀をする。
「お背中を流しに参りました」
「……そ……」僕はやっと言葉を吐き出す。「そ、そんなの、
いらないよ! 僕一人でできるし……」
「しかしご主人様は足に傷を負われている様子。ここは私めにお任せください」
「だ、だめだってば!」
「遠慮なさらず。お会いしたばかりですから、
少しでもコミュニケーションを取っておきたいのです」
 そう言って、なかば強引に僕の背中に手を這わせる葵さん。
 横を見れば、褐色のムッチリとした太ももが触れられるほどの距離にあり、
その付け根には短いスカートに縁取られた臀部と、
それを申し訳程度に隠す白いショーツがあった。

(ああ……! こんなの……テレビでも見たことがないよ!)

 女性と会う機会の少なかった僕にとって、女性はテレビの中で見る存在だった。
 もちろん僕とて年頃の男の子、女性に興味がない訳じゃない。
 時折水着姿で出てくる女性を見て、気分を悶々とさせることだってある。
 でも、葵さんは、そんなテレビに出てくる女性よりもよっぽど綺麗で……
……その綺麗な女性が、あられもない姿を僕に見せつけているだなんて……。
 ――僕の頭は、次第にぼーっとなってくる。
 やがて、葵さんは僕の背中を洗い終えて……。

「あら」

 ……僕の正面を見た葵さんは、感嘆の声を上げる。
 それを聞いて、やっと僕はその理由に気がついた――
 ――僕のモノが、半分ほど勃起していたのだ。

「うわああああああああああああっ!」

 僕は慌ててそれを両手で隠す。
 しかし、急いで動いたために痛めた足をほつれさせてしまい、後ろに転倒。
 仰向けに寝転がる姿勢となってしまった。

「ふふふ……」そんな僕のみっともない姿を見て、優しく笑う葵さん。「大丈夫ですよ。
私だって、初めて見る訳じゃないんですから」
「そ、そういうんじゃなくて、あの……」
「いいのです。恥ずかしがらなくて……私はご主人様に仕えるメイドなのですから」

 そう言って、彼女は僕の上に覆い被さると、僕の胸板をタオルで擦り始めた。
 下を見るだけで、彼女の豊満な胸が、メイド服の中で窮屈そうにたわむのが見える。
 股間を隠す手に増す抵抗――僕のモノは、すでに完全に勃起しきっていた。

「たくましい胸板……」

 妖艶に言う葵さん。
 僕は彼女に全身を見られていることに羞恥を覚えて、同時に興奮してしまう。

(み、見られてる……恥ずかしいところも、全部……)

 やがて、全身を拭き終わると、僕は葵さんに連れられて脱衣室に戻る。
 彼女の手で着替えさせられながら、僕は勃起した股間を手で隠すことしかできなかった……。

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