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射撃戦隊ガンレンジャー(5)

作者:XXXR氏
備考1:戦隊もの
備考2:現時点で非エロ(※注意:女怪人が死にます)

私立大成小学校。
裕福な家庭の子息が主に通うお受験校であるが、現在は凄惨な現場と化して
いた。校舎の一部は崩れ、逃げ遅れた生徒達は、分断された状態で各所に取
り残されている。
そんな中の一つ。元は階段の踊り場であったと思われる場所に、二人の子供
がいた。言うまでもなくワタルとメグミである。
イジメの主犯格であるメグミが、今日もワタルを人気のないここへ呼び出し
た時、丁度怪人の襲撃が起きたのだ。幸い瓦礫は上手く二人を避けるように
積もったらしく、二人にも大きなケガはない。しかし二人は瓦礫に閉じこめ
られてしまっており、唯一、子供が上るには少々高めの場所に、小さな穴が
開いているのみであった。
「……」
「……」
二人は何も言わず、それほど広くはない空間の両端に腰を下ろし、体育座り
で互いを見る。いや、正確にはメグミの視線がワタルを睨み付けている一方
で、彼のそれは微妙に逸れていたのだが。
「何よ」
「いや……」
どう考えても睨まれているワタルの方が文句を言うべきなのだが、メグミの
眼力に気圧されてしまっていた。目はどんどん逸れていき、やがて視界に例
の穴が見えると、そこから漏れる光をぼうっと眺め始める。
それでも、時折ちらっとメグミの方に目を向けていた。
「何?」
「いや、だから……」
「だから、何?」
「だから、その……」
「その、何?」
「その、えっと……」
「えっと……えっと、何なのよ!!」
突然メグミは声を張り上げ、ワタルに飛びつくと、襟を掴んで揺さぶり始め
る。
「何よ! どうせ、こうなったのはあたしのせいだとか、思ってるんでしょ
! わかってるのよ! どうせなら、はっきり言いなさいよ!」
「そ……そんな事思ってないよ!」
「じゃあ何なのよ! そっぽ向いちゃって!」
「……あれ……」
ワタルが指差す方には、例の小さな穴がある。彼はさっきからずっと、あの
穴について考えていた。時折メグミを見ていたのは、穴の大きさと彼女の体
格を、比べていたのだ。
そして、ワタルは一つの結論を出した。
「多分……ぼくなら、あそこから出られる」

ワタルとメグミが言い争っていた頃、外は酷い有様だった。
校舎の一部が崩れ落ち、所々から火の手が上がっている。一方で、まだ無事
な校舎からは、子供達が先生に連れられて避難していた。
「ギ……ギギ……ギ」
「ギギギ」
そんな子供達の所へ、不格好な形状の怪人が近づく。『ガラクタ』という通
称のとおり、スクラップで造ったボディに失敗作のOSを組み込んだ、ロボ
ットタイプの雑兵怪人だ。
「ギギ……ギッギィ!」
「ギギ!」
他よりも若干出来の良い固体に率いられ、ガラクタは子供達へと向かって行
く。果敢に庇おうとした先生を投げ飛ばし、その手はゆっくりと一人の少女
に近づく。
ダァン!
「ギー!!」
と、その時。一発の光線が、ガラクタの肘を撃ち抜いた。振り返った彼らの
目に映ったのは、真っ赤な戦闘服を身に纏う、鮮やかな人影。
「そこまでだ」
レッドが静かにそう言った途端、ガラクタ達は一斉に逃走態勢に入る。
「遅い」
ダン! ダン! ダン!
重低音と共に、彼の愛用のマグナムタイプの銃から光弾が撃ち出される。そ
れらはガラクタの頭部を次々に貫き、元のスクラップへと戻していく。
「Hey come on! come on!!」
DADADADADADADADADADADADADADADA!!!
一方でブルーは、ガトリングタイプの銃を用いてガラクタの一団を一掃し、
近づいてきた相手にはその高速回転する銃身を押し付け、ミキサーの様に砕
いていく。
「12時、3時、7時の方向に目標補足」
パシュッ パシュッ パシュッ
「ギッ……」 「ギギ……」 「ギィ……」
「目標、撃破」
隠れてやり過ごそうとしたガラクタたちは、屋上に陣取ったホワイトが、ス
ナイパーライフルを用いた正確な狙撃で、確実に撃ち抜いていた。
敵は確実に減っている。しかし、ヘルメットの中の彼らの顔には、焦りが見
てとれた。それもそのはず。この場には、絶対にいるはずの存在がいない。
そう、この襲撃事件の首謀者であるはずの、シャドウビーストと呼ばれる中
級個体の姿が、ここには影も形もなかったのだ。

ワタルは慎重に瓦礫を上り、上にある穴を目指す。下ではメグミが何か騒い
でいたが、悪いけれど無視させてもらう事にした。
自身の一挙手一投足に、細心の注意をはらう。右手をゆっくりと上げ、数カ
所の出っ張りを一つずつ確認し、頑丈な部分を探す。見つかったら、次は右
足。次に左手、左足。
少しずつ上を目指しながら、ワタルはまた他の事を考えていた。昨日出会っ
たお兄さんが語ってくれた言葉についてだ。

『泣いたって、だめだ。
 やめてって言ったって、聞いちゃくれない。
 でも、だからって、そこであきらめちゃだめなんだ。
 泣くよりも、言葉にするよりも強く、自分の気持ちを、みんなに見せつけ
るんだ。
 怖くても、勇気を出して、動き出すんだ。戦うんだ。
 ……そうじゃないと、なんにも変わらないんだよ』

泣いたってだめ。なら泣かない。
やめてなんて言っても無駄。だったら言わない。
そしたら何をする? 何ができる?
これをする。これができる。
あの穴から外に出て、助けを呼んで帰って来る。あの子を、メグミを助ける
ために。
散々いじめられたけれど、だからってここで瓦礫に潰されてしまえばいいと
は思えない。
外は多分、ここでじっとしているよりも危険だろう。それでも行く。行かな
きゃいけない。たとえ怖くても。
勇気を出す。動き出す。戦う。
今が、その時だ。
何かを、変える時だ。

そんな事を考えている内に、穴に辿り着いた。既に沢山の傷が出来てしまっ
た両手で穴の縁を掴み、足場を蹴るようにして、勢いよく穴の中へと入って
行く。
穴は思っていたよりずっと狭く、ワタルの体躯でも少しきつかった。当然な
がら鉄骨やガラスの破片がそこかしこから飛び出しており、彼の体を容赦な
く引っ掻く。
もはや全身傷だらけのワタルだったが、それでも進み続けた。
やがて出口が見えてくると、ワタルは障害物にも構わずスピードを上げ、つ
いに脱出に成功する。
見回した外は、予想通り、いや予想以上の惨状だった。周囲に人影は見えな
かったが、僅かな期待を込めてワタルは叫ぶ。
「誰か! 誰かいませんか!?」
瞬間。
ワタルの目の前の空気が、いきなりグニャっと歪んだ。歪みは広がり、人型
になり、段々と緑色に変わっていく。
「はあ~い。お姉さんのこと呼んだぁ? ボクぅ」
「あ……ああ……あ……」
そこには、緑のレザースーツに身を包んだ怪人が佇んでいた。

「あははっ、かわいい~! どうしたのかな? こんな所で」
ワタルの目の前に突如現れた異様な風体の女性は、妙に高いテンションで彼
に話しかけてきた。根拠は無いが、ワタルは確信していた。この女性こそが
、今回の事件の首謀者に違いないと。
「まあいいや、こんな可愛い子が残ってたなんて、ラッキー!」
女性は楽しそうに笑いながら、ワタルに手を伸ばす。この女性は、いったい
自分をどうする気なのだろう。ワタルには、その手がいつものいじめっ子た
ちの手と重なって見えた。いつもなら、ここで諦めてしまうだろう。
「……と……おして」
しかし今日のワタルはいつもとは違った。
「急いでるんだ。早くしないと、あの子が大変な事になっちゃうんだ。だか
ら……だから通して!!」
ワタルは女性に対して、屹然と言い放った。
「……」
それを聞いた女性は、とたんに不機嫌そうな顔になる。
「かわいく……ないな~。そういう態度は、お姉さん嫌い」
女性は腰に提げた鞭を手に取る。
「まあもうケガしてるみたいだし、今更増えても問題ないよね」
そう言って鞭を振り上げる。顔には先ほどまでとは、また違った笑みが張り
付いていた。ワタルは女性の横を走り抜けようとするが、あっと言う間に鞭
に絡め取られてしまった。「さ~て、言うこと聞かない悪い子には、どんな
オシオキしちゃおっかなぁ~!」
「う……うう……」
転んでしまったワタルに、女性はゆっくりと近づく。彼女の鞭が再び振り上
げられた。
「さ~て、可愛い声を出して……キャッ」
彼女の振り上げた腕に、二つの光線が当たる。ワタルが振り向くと、そこに
は二人の男女が、見たこともない銃を構えていた。
「そこまでよ、このショタコン女」
女性の方は知らなかったが、
「ワタルくん、大丈夫だった?」
自分の方に近づいて来た、男性の方は知っていた。
「大介……さん? どうして、こんな所に……」
昨日自分の話を聞いてくれた、大介さんだった。
「そんな事より、後はきみだけ?」
「ま……まだ一人。女の子がいます……」
「わかった。いくぞ、ハナビ!」
「オッケー!」
二人は手にした銃を捻るように折りたたみ、左手首に装着した。そして両手
を突き出し、引き金を引く。
「「変身」」
一瞬光に包まれ、それが収まった時には二人の姿は変わっていた。
「……うわ……カッコイイ……」
そう、まるで、テレビの中のヒーローの様な姿に。
「それで、その子はどこ?」
黒い姿になった大介さんが、ワタルに話しかけてくる。
「えっと……こっちです」
ワタルに案内され、ブラックは穴の中へと飛び込んでいく。
「ちょっと、その子はアタシが……」
そう言う女性の前には、グリーンが立ちはだかる。
「あんたの相手は私よ」

穴の底で待ち続けるメグミは、段々と不安に襲われていた。
果たしてワタルは帰ってくるのか? という疑問である。あれだけ虐めた相
手だ。おまけについさっき、ずいぶんと酷いことを言ってしまったばかりで
もある。普通に考えれば、外に出た時点で自分の事など見捨て、そのまま逃
げるだろう。
そうだ、自分がやってきた事は、それくらい酷い事だったのだ。こういう時
に見捨てられてもしょうがないくらい、それくらい相手が怒るような事。
きっと、自分がこのままここで死んだって、自業自得なのだ。
けれど、最後に見たワタルの顔を思い出す。目がいつもとは違った。力強く
て、その……何だか……かっこよかった……のだ。あれは言ったことを破る
目じゃない。そんな気がする。
何だか、涙が出てきた。何でだろう? 何で泣いてるんだろう? 
こんな所に一人ぼっちだから? 
ワタルがなかなか帰ってきてくれないから? 
それとも、この後に及んでワタルに期待する、自分が酷い女だって気付いて
しまったから?
そういえば、ワタルが泣いてる時、私はいっつも隣で、ワタルの事バカにし
て、笑ってたっけ……。
「……ぐすっ……ワタルぅ……」
一人穴の底で、メグミは泣いた。何で泣いているのかわからなかったけれど
、とにかく、泣きたくなったから泣いたのだ。


勢い良く穴に飛び込んだブラックは、そのまま落ちて行く。行きと同じく、
途中様々な障害物があったが、特殊スーツを着たブラックにも、彼に庇われ
ていたワタルにも、ケガは無かった。
底に辿り着くと、ブラックは見事な着地を決める。見渡してみると、空間の
隅に丸くなった女の子がいた。
「ぐすっ……ぐすっ……ワタルぅ……なにやってんのよぉ……早くもどって
きてよぉ……」
どうやら泣いているらしい。ブラックにしてみれば、この状況で女の子が泣
いているのは当然だったが、ワタルにはとても意外に思えた。
「あの……メグミ……ちゃん?」
思わず、話しかけるのにも及び腰になってしまう。そう言えば、名前を呼ん
だのは初めてだったかもしれない。
「ぐすっ……ワタル?」
メグミが顔を上げる。案の定、涙でぐしゃぐしゃだ。失礼かもしれないけれ
ど、何だか可愛いなと、ワタルは思った。
「ワタルぅ……おそいよぉ……ぐすっ……何やってたのよぉ……」
「うん。ごめん……遅くなってごめんね……」
「ワタル……」
「なに?」
「私もごめんね……いっぱいひどいこと言ってごめんね……ひどいことして
、ごめんねぇ……」
「それはいいよ。もういいから、はやくここから出よ。ねっ?」
「ぐす……あと……一つだけ……」
「うん、何?」
「……ありがと……」
「うん、どういたしまして」
泣き続けるメグミの背中を、ワタルはまるでお兄ちゃんの様に、とんとんと
優しく叩いてあげている。その光景を、ブラックは所在なさげに立ちながら
、しかし優しい眼差しで見ていた。

一方こちらはグリーン。現在女怪人と睨み合いを続けている。
相手は潜入工作型怪人。非常に人に近いボディに、特殊なスーツや装備を着
ける事で武装しているタイプだ。その名の通り、武装を取れば人と大差ない
外見を利用して、潜入工作を行うのが主な任務だ。
見たところ、今回の敵は女性型のボディに、ウロコ模様の緑スーツ。手には
真っ赤な鞭。顔に半球を二つくっつけた様なゴーグルを装備し、二つの半球
の中では、カメラアイが左右バラバラにぐるぐる動き回っている。大方、カ
メレオン型の怪人か。
「ねえ、あんた。何でこんな派手なやり方した訳?」
とりあえず、疑問に思った事をぶつける。相手はそれを聞くと、何とも楽し
げにニヤァっと嗤った。
「よくぞ聞いてくれましたって感じかしら?」
カメレオン女は、笑みを浮かべたまま話し始める。
「見ての通り、アタシは潜入工作型。ウチの組織のお得意先が依頼してきた
、とあるお偉いさんの孫娘の誘拐が、アタシのミッション、アタシの生まれ
てきた意味。だけどさあ……」
カメレオンは鞭を振り上げ、勢い良く振り下ろす。鞭は一気に伸び、グリー
ンの背後の木を破砕した。
「つまんないじゃんそんなの! せっかくこんな事できるのにさあ! なん
でそんな地味~なお仕事しなきゃなんないワケ? アタシさあ、何か生まれ
た時から大好きなんだよねえ! 破壊! 殺戮! 暴力サイコー! ぶっ壊
すのが大好き! 弱っちいのを好き放題にしてやるのはもっと好き!」
グリーンはただ立って、カメレオンの話を聞いている。
「あんただってさあ、ちょっとはわかるでしょ? 暴力って楽しいよね? 
ぶっとばしたらスカッとすんぜ? きゃははははははははははグヘッ!!」
ドガンッ!
突如跳んだグリーンは、まるでそれ以上は聞きたくないとでも言うように、
カメレオンの腹を思い切り殴った。
「ええ、そうね……今うざったい奴をぶっとばしたら……ちょっとだけ気分
良くなった」
得物たるキャノン砲を転送。両手に装備すると、本来の用途はまるっきり無
視して、まるでハンマーのごとく振り回す。
「大ッ嫌い。私はあんたらみたいなのが大ッ嫌いなのよ! オラ! オラ!
オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラぁ!!!」
ドガンッ! バギッ! ズン! ガンッ!
そして飛んで行くカメレオンに向かい、
「とぉどめだぁあ!!!! どりゃああ!!!!!」
ドォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォォン!!!!!
キャノン砲をようやく、そして盛大にぶっ放し、カメレオンは季節はずれの
花火と化した。

度重なるグリーンの攻撃によって一帯には激しい衝撃が襲い、戦いの舞台と
なっていた瓦礫の山が音を立てて崩落していく。その中から、二人の子供を
抱えたブラックが飛び出して来た。
「どう、そっちは」
「うん、大体終わった」
グリーンと軽い挨拶を交わしつつ、メグミをゆっくりと横たえる。ワタルは
ブラックの肩から降りると、彼女の手を取り、すぐ隣に座った。
「やっぱりと言うか、かなり弱かったわ」
「そうか」
黒こげになって倒れるカメレオン怪人を見て、グリーンは吐き捨てる様に言
い放った。
通常の怪人と比べ、隠密行動に重点を置いている潜入工作型怪人は、戦闘能
力には限界がある。精々ガラクタと通常怪人の中間がいい所だ。
つまりこのカメレオン怪人は、その程度の戦闘力で粋がっていたのである。
「それどころかコイツ、潜入工作用としては完っ全に人格形成に失敗してた
。はっきり言って雑魚よ。総合能力ならガラクタ以下。こんなのを導入した
所を見ると、今回の作戦はあいつらにとって、失敗しようがどうなろうが、
どうでもいいものだったみたいね」
「ひどい言い草だな。ご機嫌斜めか? 何かあった?」
「……別に」
普通潜入工作型の活動は、目立たず騒がず、仮に自分たちと出会っても、倒
すなどと考えず、逃げることを第一とするのがセオリーだ。今回のように真
っ向から向かって来るばかりか、見つけて下さいと言わんばかりの大規模破
壊活動など、愚の骨頂である。
「ぐ……ぐぐぐ……ぐはっ……」
カメレオンの声に、二人は振り向く。その声はうめき声のようにも、調子の
悪い機械が出す雑音のようにも聞こえた。
怪人の意地か、その体を何とか動かし、ゆっくりと立ち上がっていくカメレ
オン。肌は焼け、所々破れて、中の機械が見えている。その姿はかなり痛々
しい。立ったところで戦えるとも思えない。それでも一応ブラックとグリー
ンも構えるが……そこまでだった。

……シャキン……
そんな静かな音が聞こえた直後、カメレオンはばったりと倒れ、今度こそダ
メージが限界を超えたのか、大爆発を起こす。その後ろから現れたのは、あ
の銀色の幹部怪人だった。
「ヨロイ……」
それぞれの武器を構えようとする二人に対して、ヨロイはまあ待てと言いた
げに、手で動作をした。
『今日は戦闘の意志はない』
変成器越しの声が響く。
『今回の一件は、全てこの女の暴走によるものだ。こちらとしても意図して
行った訳ではない。私は落とし前をつけるために来た』
そう言いながら二人の横を通り抜け、ワタル達に近づいて行く。
「あ、ちょっと!」
グリーンの制止にも構わず、ヨロイはワタルに近づくと、片膝をついて目線
を合わせ、彼の頭にぽんっと手を置いた。
『すまないな……ずいぶんと怖い思いをさせてしまった……』
意外な発言に、二人は何も言えなくなる。ワタルも同様だったらしく、ただ
ふるふると首を横に振っていた。
『そちらの少女も、聞こえていないだろうが、悪かった。申し訳ない』
律儀に頭を下げると、こちらに向き直り、
『今回のことは全てこちらのミスが原因だ。NOMを代表して、私が謝罪する。
それと、奴を倒してくれた事は、今回限り礼を言おう』
こちらにも深々と頭を下げた。
『それでは、これで失礼させてもらう』
そしてヨロイは立ち上がり、やって来た方向から去ろうとする。そしてブラ
ックの横を通った時、ブラックが何事か囁いた。
「………………………………………」
『………………』
それを聞いたヨロイは立ち止まり、また歩き出す。それはほんの短い時間の
出来事であり、すぐ近くにいたグリーンも、気付く事はなかった。

数日後。校舎の一部が壊れたものの、残った部分を用いて、大成小学校の授
業は早くも再開される事となった。
「やーいやーい、泣き虫ワタルー」
「ほーらほーら、すてちまうぞー」
今日もワタルは筆箱を取られ、泣きながら必死にいじめっ子達を追いかけて
いた。先日取られた物はとうとう返してくれなかったので、何とか誤魔化し
て新しく買ってもらったばかりの物だ。
いじめっ子達の足は速く、ワタルではなかなか追いつけない。泣きながら走
っているものだから、息が上がるのも早い。このまま今日も返してもらえな
いのだろうか。今度は親になんと言い訳しよう。そんな弱気なことをワタル
が考え始めたその時。
「こらぁぁぁぁぁぁああああああああ!!!!!」
どかっ
威勢の良いかけ声と共に登場した少女が、いじめっ子の一人に跳び蹴りを見
舞った。
「あんたたち、何やってんの!」
そう言ってどんっと仁王立ちするのは、あのメグミだった。
ぽかぽかぽかぽかっ
そのまま有無も言わさずいじめっ子達にゲンコツを喰らわせると、何か言お
うとしていたやつらも黙ってしまった。
「どうせ筆箱でしょ。そこに置いて、さっさとどっか行きなさい! 
それともぉ……」
メグミが自身のゲンコツにはあ~と息をかけると、彼らは筆箱を放りだし、
訳がわからないと言いたげな顔で逃げ出して行く。
「いい? 今日からこいつをいじめる奴は、私が相手になるからね!!」
いじめっ子達の背中にそう叫ぶと、今度はワタルに向き直り、その手に筆箱
をしっかりと握らせた。
「ほら、取り返したよ」
「……ぐすっ……ぐすっ……ありがと……」
「ああもう、あんたも、これくらいで泣くんじゃないの!」
「そんな事……言ったってぇ……」
「だから泣くな! あたしを助けるって言った時の迫力はどうしちゃったの
よ! あんなのよりよっぽど怖い目に会ったじゃない! その時のあんたは
、今みたいに泣いたりしてなかった! 今更いじめっ子くらい何よ!」
「でも……」
「ああーもう!! いい!! こうなったら私がワタルをきたえる!! 一
人前の男にしてやる!!! ワタル! とりあえず今日から、放課後にラン
ニングするよ!」
「え……えぇ~……」
「ええ~じゃない! 強くなって、あんな奴ら見返してやんなさい!」


「あらまあ……」
「あははっ……」
その様子を塀の上から、華美と大介が見守っている。メグミとワタルの二人
がどうなったのか心配だったので、こっそり様子を見に来たのだ。
「まああの調子なら、大丈夫そうね」
「そうだな……良かったよ。オレみたいにならなくて」
何の気無しに言った大介の言葉。かなり小さいものだったが。華美には聞こ
えてしまった。
そうだ、本当に良かった。あんな事にならなくて。

華美の記憶の中、二人が通っていた、小学校の屋上。
そこにいるのは、訳もわからずにわめき続ける自分。そして、フェンスの向
こうで、寂しそうな、けれどどこかさっぱりしたような微笑みを浮かべる、
大介。
やがて大介の手はフェンスから離れ、彼の体はゆっくりと背後へ落ちて行く
。走り出した自分もまた、フェンスの向こうの青空へと身を躍らせ……
「……ビ……ハナビ!」
ふと気が付くと、大介が訝しげな顔でこちらを見ている。どうやら少し心配
させたしまったようだ。
「大丈夫か?」
「う……うん! 大丈夫、大丈夫」
「そっか。なら良かった」
そう言って笑う大介。その笑顔を見て、華美の顔にも自然と笑みが浮かぶ。
「あの、本校に何か御用ですか?」
その笑顔が、ぴしりと固まった。眼鏡を掛けた教員と思われる女性が、こち
らを見ている。例の事件でまだぴりぴりしているのか、塀の上の不審者二人
に対して、疑惑の眼差しである。
見れば、別の教員が屈強なガードマン達を連れてくる所であった。
「あ……な、何でもないんです!」
「そう! 何でもないんです……それじゃっ!」
未だ笑顔が張り付いた顔でそう言うと、二人は猛スピードで去っていった。

深夜の大鷲大学。道場の扉を開けた大介の前には、いつもの人影。
「ちゃんと来てくれたんですね」
「ああ」
ゆっくりと振り返る、長髪美人……佐々木燕である。
「なぜ、わかったんだ?」
「結構前から、ちょっと疑ってました」
「ほう、何故だ? けっこう誤魔化せていたつもりだったが」
「オレの特訓内容です」
「特訓内容? 何か問題があったか?」
「いえ、何も。ただ的確過ぎたんです」
大介は話しながらも、自身のこれまでの特訓を回想する。
「あなたはオレに、ただ避けることだけを教え続けた。その理由は理にかな
っていましたけど、たしかあなたには、オレの戦闘スタイルは蹴りだと話し
ていたはずです。なのに、どうやって『蹴りを当てるか』を、あなたは全く
教えてはくれない……。無論、何か考えがあるのかもしれない、そうも思い
ました。けれど、ふっと思いついちゃったんです」
大介は懐に手を入れる。
「あなたはオレの本当の戦い方を知っている……オレの本当の武器が銃だっ
て、知ってるんじゃないかって」
そして小銃を取り出した。
「そう思って言動を観察してみれば……本当は隠す気なんて無いでしょ?」
「演技は苦手なんだよ……」
そう苦笑した燕は、手に小刀を持っている。
大介は小銃を変形させ、左手首に装着した。
「変身」
燕もまた、小刀を抜き放ち、構える。
「……変……身」
二人の体は光に包まれ、ブラックへ、そしてヨロイへと姿を変えた。
「さあ来い。どれだけ成長できたか、確かめてやる」
「お願いします」
そう言ってブラックは礼の構えをとる。
「やめてくれ。もう師匠でも弟子でもない。先輩でも後輩でもない。ただ、
男と女……戦士が二人だ。敬語はやめろ」
その言葉を聞き、数秒沈黙するブラック。しかしやがて得物たる二丁拳銃を
取り出し、攻撃的なものへと構えを変える。
「わかった。行くぞ」
「その前に一言」
「何だよ」
「……この一ヶ月はとても楽しかった」
「……オレもだ」
お互い、そのマスクの下で一瞬の微笑み。そしてまた、唇を引き締める。
「始めようか!」
「おう!」
そして、深夜の決闘が幕を開けた。

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